掃き溜めの星。

No.81 ページ32

「はぁ、どうしてどいつもコイツも人の言う事を聞かないんだ。まぁ、織り込み済みではあるが」
「……何の話だ」

レブルの首領ミルクが討たれて五日が経過した今日の正午過ぎ、緊急治療室から吉報が届いた。
ミルクが目を覚ましたのだ。
ロストアイズの服に付いた血の量を考えると、とても五日で回復出来る状態では無かった。しかし、天は彼等を見放さなかった様だ。
奇跡──随分とチープな言葉で並べられてしまっているが、事実とは異なる。最善を尽くしたからこそ、この結果を生んだのだ。
この報せを聞いて、斎槻は胸を撫で下ろすが、それとはまた別の事で再び頭を悩ます羽目になった。
斎槻が式神が映し出す外の映像を横目に見ながら調べ物をする傍、先程ミルクを見舞いに行っていた琉架は車椅子に乗りながら書類を整理していた。

「人の忠告はしっかり聞いておくべきなんだ。後で墓穴を掘って埋まっても、僕の責任では無いからね。だが、それとこれとはまた別で、僕には部下を守る義務がある。だから、三葉さんには暫くじっとしてて欲しかったんだよね。まぁ、彼女の事だから、『控えろとは言われたけど、外出するなとは言われてない』と答えるだろう。分かってるさ、敢えて外出するなとは言わなかったからな。外出禁止と言って、彼女が素直に言う事を聞くとは到底思ってなかったからね」
「そんなに心配なら付いて行けば良いんじゃないか?」
「そうしたいのは山々だが、どっかの誰かが膝にフォークを刺してくるとは思わなかったからね。仕事が増える一方で正直参ってるよ」
「……悪かったって。それに戦闘に怪我は付き物だろ? 無傷でいられる方が逆に可笑しい」
「…………レブルを、レブルの皆を思うなら、今は戦うべきじゃ無い」

ピシャリと琉架の言い分を切り捨てると、斎槻は資料を机の上に広がる。長方形の板の上に、平面的な東京が浮かび上がった。その故意に空けられた白いラインの上を、赤いマーカのインクが埋めて行った。

「何かあってからでは遅いんだよ。命あるからこそ、この組織を守れるんだ。保守的になれとは言わない。だが、無闇に突っ込んで犬死すれば、それこそ相手の思う壺だと僕は思うね」
「……」

二箇所の空き地らしき場所をインクで塗り潰す。
すると、赤く塗られたラインは一直線に二つの空き地を結ぶ形となった。
二つの空き地。東がレブルの拠点、西側ラビッシュの拠点。複雑なルートは通っているが、間違いなく二つの拠点を結ぶ最速の近道となっていた。

No.82→←No.80

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す