掃き溜めの星。

No.51 ページ2

くだらない、と彼――太刀は思っていた。
　真っ白い髪の上に同じ色のフードを被り、暑い日だと言うのに着た長袖から少し覗く肌は青白く、それと似たような容姿の人形を胸元に抱えた姿は、異世界から迷い込んできた子供の様だった。それ程、彼の風貌は人間らしくなかった。自分達と違って不気味な彼にあえて触れる大人は誰もいない。

　彼は人形の頭を骨張った固い手で適当に撫でながら、人混みに紛れて政治家の演説に耳を傾けていた。別に何てこともない、ただのきまぐれだ。駄菓子屋に寄った帰り、ふと何かに集まる人々を見かけて来てみただけ。
　小さな菓子を入れたポケットを揺すりながら、ただなんとなく、政治家の話を聞き流す。読み終わった本を読むのと似たようなものだ。どの政治家だろうが、言うこともやることもみんな一緒。発言一つ一つに面白みも驚きもなく、全て頭の中で分かりきっていた。

　こんなつまらない話は、子供な彼にとっては飽きるだけでどうでもいい。大人は皆消して新世界を創るんだから、こんな話したって意味は無い。彼は静かに赤い瞳を吊り上げ、人形を抱いたままそっと片手の平を空に向ける。
　今は日差しの強い日中だ。光を従えて武器にでも兵士にでも出来る彼からすれば、ここに腐るほどいる大人達を一瞬で貫いてしまうことくらい容易い。折角ゴミを沢山見つけたんだ、纏めて消し飛ばせるなら丁度いい――

　彼の手元に光が集まり、新しい玩具を手に入れたような、無邪気で子供らしい笑みを浮かべたその時だった。演説を止めるように、政治家の体のいい声とは違う低くて怒気を孕んだ声が響く。当然政治家は語るのをやめ、誰もが声の主である青年に視線を向けた。

「何が『大人も子供も住みやすい日本』だよ?実際何か変わったか?」

　青年が前列に立ち、人々に向けて語りだした。
　それを見た彼の血色の瞳が、驚きで見開かれる。飽きる程読み返した本の展開が覚えていたものと違うとか、あるいは先が予想出来る程ベタな展開かと思ったら全く違ったような、兎に角彼にとって我が目を疑う衝撃だった。
　それは政治家を遮って大声で語り出す奴がいたことでも、自分と似た考えの奴がいたことでもない。

(違う、見間違いなんかじゃない。あの子は、あの子は――!)

　自分と正反対の真っ黒い綺麗な髪に、昔よりも少し伸びた前髪、身長も伸びて逞しくなってるけど、間違うはずがない、あれ程一緒に幸せな時を過ごしたのだから!あれは――


(あの男の子……!)

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