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2年ぶりくらいにブランコに乗る。あまり音を立てると、近所に「夜に公園で遊んでいる子がいる」とバレてしまう。学校に電話されたら終わる。なので、割と控えめに漕ぐ。
深い溜息を吐く。家では溜息は不機嫌の象徴で、溜息を吐くと何だか知らないけどキレられる。なんだあの男。頭沸いてんのか？ 追い炊き中か？？
湿って冷たい砂を見ていると、不意にガコン、という金属音が上から聞こえた。カラス？ こんな時間に？ 上を見上げる前に、上から声が降ってきた。
「いい夜だね。雨上がりの夜って、綺麗だしワクワクするから好き。君は？」
聞き覚えの無い、だけど身に覚えのある声だった。私の中にある声。いつも優しさをくれる声。数多にいる中の主人公の一人。
若い青年の声だ。純粋そうで、穏やかなゆったりした、だけど芯のある音の響き。
「こんばんはくろせさん。こんな時間に外に出るなんて危ないからやめた方がいいよ？」
「烙、飛……だ…………」
センター分けの黒髪に額についた十字の縫い跡。赤い瞳に骨を模した服。
頭の中が混乱していた。そりゃあそうだ、存在しない人が目の前に現れたら、誰だって混乱するだろう。瞬きをしたり、目を擦ったり、頬をつねったりしてみたけれど、ブランコの上のパイプにしゃがんでいる烙飛は消えなかった。
烙飛はうっすらと笑みを浮かべて、地面に慣れた様子で着地した。
「初めまして。糸賀烙飛です。君がくろせさんでしょ？ 俺達を創った」
「…本物？」
「正真正銘」
「ほんとに？？ 嘘…まって超カッコイイじゃん…、本物の烙飛だ…あっ、烙飛握手して！」
「…うん？」
「…マジで生きてるの？ 意味わかんないんだけど」
すぐに混乱は喜びに塗り替えられた。改めて烙飛を見た瞬間に、私の心臓は跳ねる。鼓動を速める。何が起こっているのか全く分からないけど、本物だろうとなかろうと、彼に出会えたことはきっと一生で一度の大きな幸せだ。
烙飛は隣のブランコに座って、「どうやら、創作物の架空の人物が現実に現れるってことがこの世にはあるらしいんだよね」と言った。
「で、なんか図書館があるんだけど、そこには『原典』っていうのがあるんだ。架空の物語の全てがある本」
「…その原典がどうしたの？」
烙飛の前髪が長すぎて、俯くと顔が見えない。顔を覗き込もうとすると、不意に私にだけ聴こえるような小さな声で、でもはっきり言った。
「燃やさせて欲しいんだよね」
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