* ページ6
.
「どう? 面白かった?」
「はい! ありがとうございました!」
「あは、珍しく声でかい」
「はっ…、す、すみません」
「謝る事ないのに〜」
久しく映画館で映画など見ていなかったので、萠夏にとっては映画の内容云々より映画を観れる事自体が楽しかった。興奮すると声が大きくなる癖に指摘されて気付き、慌てて口を手で覆う。
変わらず進吾はケラケラ笑い、自分より遥かに背が小さい萠夏の歩幅に合わせて歩いた。
「どうする? もう帰る? それとも遊んでく?」
「あ、どちらでも…」
「じゃあ遊ぼう! ゲーセンと服屋とスイーツ店どれがいい?」
どちらでも、と萠夏が返答した瞬間、進吾は萠夏の手を掴みデパートへと歩き出す。
進吾は前しか見ていないが、萠夏の顔は耳まで真っ赤だった。手を掴まれているという表現がいつの間に手を繋いでいるという表現に変わってしまったからだ。進吾は手を掴みっぱなしという事を知らないのかそれともわざとなのか、そのまま服屋で買い物を続ける。
よく見れば整った顔立ちである。目も大きく二重で、睫毛は長く量がある。
初対面の時は身長や喧嘩直後だった事もあってか不良にしか見えなかったが、思っていたよりもずっと無邪気でずっと優しい人柄だ。気遣いもしてくれるし、今もこうして萠夏を楽しませようとしてくれているのである。
当然進吾は猫を被っている。学校では至って普通を装っているのもそうだが、自分の人間性がないという部分をさらけ出せば警戒されるに決まっている。好都合だったのは萠夏が女だった事だ。
恋は盲目、恋愛中の人の頭はバグっているも同然だ。例え第三者から見て「どう見ても騙されている」という状態でも、恋している当人は気付きもしない。利用するには恋人が良いと、どう萠夏を手中に入れるか考えている途中に気が付いた。
つまり落とせば勝ち、という訳である。思わせ振りな態度も計画の内だ。
「はぁー楽しかった。また暇だったら言ってよ、遊びにいこ」
「はい、是非…今日はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ付き合って貰って。じゃあまたね。気を付けて帰るんだよ」
「はい、ありがとうございます」
帰ろうと足を萠夏の反対側に向けた時、ふと進吾は振り向いて言った。
「学校じゃない時髪下ろしてんだね。オレ下ろしてる方が好きかも」
そう言い残して、進吾は去っていった。
“落とせば勝ち”なのならば、進吾は既に勝っているのかも知れない。
4人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユーミン - とても話面白かったです。リクエストですが知り合いの小学生に喧嘩をしかけるところかみたいです (2019年12月12日 23時) (レス) id: 2c347db9d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ