【東京リベリアス】利己的テンカビト。【派生作品】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:2,187 hit

＊ページ5

.

　時刻は午前10時35分。進吾との約束では、30分に駅前で待ち合わせだった。
　しかしその場所にいるのは萠夏一人で、進吾が来る様子はない。暇を潰すように、萠夏はここまでの経緯を思い返した。

“でっ、デート？それはど、どどういう事でしょうか…!?”
“あっは、顔真っ赤。分かりやす～い。…いやね、姉ちゃんが映画の先行試写会のチケット当てたんだけど観に行けないんだって。オレ後輩の友達いないから、仲良くなるチャンスかな～って。どう？”

「(…も、もしかしてずっと来ないのでは…!? 騙された…!?)」

　3年生の間でこうして下級生を弄ぶのが流行ってるとか…!? と、マイナス思考な妄想を繰り広げていると、後ろから陽気な青年の声が掛かる。…進吾の声だ。
　振り返ると、青い色つきサングラスと黒いキャップを被った進吾が、タピオカミルクティーを両手に持って笑っていた。

「ごめん、タピオカ買いに行ってたら時間過ぎちゃったぁ。はい、萠夏ちゃんの～」
「あ、いえだ、大丈夫です…！ありがとうございます、こっ、こちらこそ気を遣わせてしまい…！」
「いーよいーよ、先輩なんだし。先輩風吹かせたい時期なんですー。じゃ、行こっか？」

　す、と進吾が手を差し出す。
　萠夏はそれをキョトンとした顔で見る。大きい手だな、と感想を心中で述べていると、進吾から「あれ、嫌だった？」と問われた。嫌？何が？萠夏は縮こまりながら恐る恐る聞く。

「あ、あの、何がですか…？」
「えーッウソ伝わらなかった？オレ恥ずかしーヤツじゃんただの！はっず！」
「す、すみません」
「レディーファーストしようとしたんだけどね～オレには早かったか」

　進吾はそう言って無邪気に笑う。
　なんだか愛嬌のある人だ。進吾の目的が萠夏を利用する事など知るよしもない萠夏は、何の疑いもなくそう思った。──何故この様な人が自分に構うのかは疑問だったが。

　映画は著名な俳優が多数出演する恋愛ものだった。
　薄暗く、そして皆がスクリーンに視線を注いでいるのをいいことに、進吾はガッツリつまらなそうな顔をしていた。進吾には“同意”という思考判断は出来るが、“共感”という感情の分かち合いは出来ない。よって嫌が応にも共感を迫られる──特に恋愛映画は、面白味を感じる事が出来ないのである。

　他人と他人が恋愛している所を観ていて何が楽しいのか。寧ろ吐き気がする。オエッ。
　そんな心情で、進吾は半目でスクリーンを眺めていた。