├ 参話:「 明確な 」 ページ3
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無抵抗に腕を引っ張られ、路地裏へと連れていかれる。人通りの少ない、パイプの行き乱れた場所。いつも以上になすがままで、人形のようにただ突き飛ばされ殴られ蹴りあげられ。普段のように痛みや恐怖を感じなかったのは、“ドロドロ”から溢れたアドレナリンのお陰だろう。
声が聞こえてくる。大嫌いな声だ。
汚い笑い声、携帯電話のシャッター音、甲高い陰口。剣士はそこで気付く。そうだ、『嫌い』なのだ。今までは人を嫌いでいるのも許されなかったからこの感情が何なのか分からなかった。でも今は違う。自由なのだ。
「うるさいうるさいうるさい! 黙れゴミ共! お前らが…お前らが、キライだ!!!」
嫌いなものだと気が付くと、世界が違って見えた。“全て”が大嫌いだからだ。自分の目も、両親も、クラスメイトも、教師も、学校も、大人も、悪も、全てが。この世に存在する全てがキライだ。
すると突如こんな思考が剣士を呑み込む。
怖くなんかない。痛くなんかない。今ここで起こす事に罪などない。何故ならオレは正義で、こいつらは悪だからだ。人をいじめるような奴なんて、いなくなった方がいい。これは正義による“断罪”。だから──…。
「オレは悪くないから関係ない……!!!」
薄暗い路地裏の影が濃くなっていく。ドロドロした感情が現れるように。
剣士は思考の赴くままに体を動かした。大きな影で出来た拳が、リーダー格の青年を殴り潰す。影から飛び出てきた狼は、本能に従って少女の足を咬み千切った。雨のように降り注ぐ影の刃、逃がすかと追い詰める剣士。
「あははっ…アハハハ、ハハハハハハハハッッ!! ほら見ろ! ざまぁないなぁ!! 全部全部お前らが悪いんだ!! お前らが『悪』なんだ!! 悪は一人残らずオレが殺してやる!!!」
解き放たれた『嫌い』は、歪んだ正義感によって『悪』となる。
元より、正義感の強い性格ではあった。あんな環境で育っては、その生きてくる過程の中で、剣士は歪んでしまった。本来『嫌い』と『悪』は別物であるのに、それが混合していた。
剣士は手に握っていたクラスメイトの臓物と手に付いた真っ赤な血に享楽的に微笑んだ。
やっとわかった。この感情の晴らし方。やっと知った。この感情の名前。父と母にも知らず知らずの内持っていたのだ。その知らず知らずが父と母を殺したのだ。
「(気持ちいい)」
剣士はこの日、初めて明確な“殺意”を持って人を殺めた。
└ 肆話:「 好きと嫌い、正義と悪 」→←├ 貳話:「 快楽が身を刺す 」
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くろせ(プロフ) - 松宮カナメさん» いえいえ!翼くんはちょくちょく出そっかなと思っているので! (2019年5月5日 3時) (レス) id: c00e49c93d (このIDを非表示/違反報告)
松宮カナメ(プロフ) - 普通に好きです……翼を出してくれてありがとうございます!更新楽しみにしてます!ああ剣士くん尊い (2019年5月4日 23時) (レス) id: eb873f1f0d (このIDを非表示/違反報告)
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