ストックホルム系犯罪譚【オリジナル】３

□ 第103話 仕事 □ ページ3

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「じゃあ、行ってくる…東京湾にでも死体捨てるか…」
「行ってらっしゃい」
「東京湾に捨てるのね…」

　溜め息混じりにデウスはそう言い、ワイヤーを小さい鞄に入れた。那楽はそれを見て首を触りながら手を振った。医者としては人を傷付ける行為はやめてほしいものだが、犯罪者たちも犯罪者たちなりに沢山の事情があり沢山の背負うものがある。それに口を出すのはデリカシーがない。
　デウスが部屋を出ていき玄関のドアが閉まったあと、シャワーに入り髪の毛を乾かし終えた千秋が脱衣場から出てきた。

　あれ、デウスは？ と千秋は首を傾げる。たった今仕事に言ったことを伝えると、千秋は納得した様に「そっか」と頷いた。

「(あー今のデウスに聞かせてあげたい。千秋ちゃん真っ先にデウスの事聞いたよ優しいなぁ)」

　優しい、という単語で総会での千秋をふとステラは思い出した。『千秋ちゃん。世界は千秋ちゃんみたいに優しくないんだよ』…涙目で嫌と訴える千秋にそう言ったことを覚えている。優しい人が優しい待遇を受けるように世界は上手くできていない。幾ら優しくったって嫌なものはあるのだ。

　デウスだってそうだ。思いやりや、優しさや、沢山の人を救う力を持っている。ステラは気付いていた。デウスがバラトに強い羨望を抱いている事を。違うのに。バラトの様に人を救う事だけが、助けるじゃないのに。デウスには、違う助け方があるのに──。
　ステラは「どうしたもんかな」と小さく呟くと、コップに水を注いだ。



　デウスはある男の亡骸を見ていた。目から涙、鼻からは血、口からは泡を吐いて、力無く少し古びたカーペットに寝転がっている。デウスは男の首に巻き付いているワイヤーをとって仕舞うと、男を背負い車に入れた。

　男には妻と娘がおり、今は単身赴任中。住んでいるのは必要最低限のものしか揃っていない安い賃貸のアパートだった。優しい人柄であったと聞いている。しかしデウスからすればそれは関係ないし、仕事なのだから仕方がない。
　この世は不条理で、どんな人でも必ず反感を買ってしまう。そんな恨みを無駄に増幅させて、吐き出せず遂には自分では出来ないから殺してくれと言ってくる輩までいる。揃いに揃ってアホらしい。


　デウスは心から何かが抜け落ちていく感覚に恐怖を抱きながらも、ビニールに包んだ死体を海に捨てた。もう辞めたいと、吐き捨てるように。

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