□ 第96話 回復キャラ □ ページ46
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那楽は幼い頃から不満を持っていた。父である那音が滅多に帰ってこない事だ。お陰で夏休みの思い出は大概「一日中ゲームをしました、楽しかったです」だし、那楽だって、他の家族の様に皆で遊園地やキャンプに行ったり旅行をしたりしたかった。
“ごめんなぁ那楽。今度皆でどっか行こうな。どこがいい”
そう言って遊園地へ連れていってくれたことをうっすらと覚えていた。年齢は越えているのに身長が足りずアトラクションに乗れなかった苦い思い出も、那音が泣きじゃくる那楽に風船とソフトクリームを持ってきた思い出も、全部掠れて消えかけていたものだった。掠れて、荒んで、溶けて、なくなる寸前だった。
嫌いになれなかった。結局。美楽と同じで、結局那音を「父」と思ってしまっていた。ブカブカの白衣を着ている自分にも、心底うんざりしていた。
冷たい床には、水滴がパタパタと音を立てて落ち、その面積を広げていく。俯いた那楽を、那音は“父親として”──···、抱き寄せて頭を撫でた。
「大きくなったな、那楽」
「くそ、クソ野郎···! なんでこんなことしたんだよ···!」
「ごめんな、ごめんなぁ」
水滴を落としていたのは那楽だった。那楽は那音の服の裾を放せずいた。子供だっていい。大人げなくて結構。今だけは、形振り構わず息子でいたかった。
「ねぇ立花ァ」
「なんですか? 不破くん」
「RPGでさ、勇者と魔法使いと僧侶が居たら、どれから倒そうと思う? 自分が魔王って体で」
「そうですね···、やっぱり強大な力を持っているっぽい勇者···? いやでも···」
ベージュ色の髪の黒パーカーの男が、女性にそう問う。『立花』と呼ばれた美しい黒髪の女性は、顎に手をついて考える。逆に『不破』と呼ばれた男は首を傾げて待ったが、暫く待っても出そうになかったので回答を待つのを止めた。
「俺だったらね、僧侶から倒す。だって回復キャラって常に脅威じゃない。いつ絶体絶命から必殺技を放って仲間達を復活させるか分からない。だから俺が魔王だったら僧侶から倒す」
「そうですか···言われてみればそうかも」
ところでジュース買ってきて、と不破はお金を立花に渡すと立花は「えぇ、さっき自動販売機あったじゃないですかーもう〜」と言いながら反対方向へ戻っていった。それを不破は見届けると、ポケットから銃を取り出して自分からみて右側に撃った。
「回復キャラから殺さなきゃ」
その方向には、那楽と那音がいた。
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くろせ(プロフ) - 紅葉さん» ありがとうございます!検討致します (2019年5月10日 18時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 千秋ちゃんが大犯罪者でバラトが誘拐される立場逆転物語を見てみたいです。 (2019年5月10日 15時) (レス) id: 95b6da62c6 (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - そうですか……わかりました!企画の検討お願いします! (2019年5月10日 0時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - 白雪の鴉亭さん» 猩々木ちゃんは、千秋(嘘吐きさん)のターンで殺されたのではなく、投票で殺されたので、本当に死んでしまった形になります。企画の件、検討します! (2019年5月9日 23時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 募集したキャラのその後とか書いて欲しいです!(ただ単にポインセチアがどうなったのか気になるだけですが……) (2019年5月9日 23時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
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