■ 第五章 沈魚落雁のピアニスト編 ■ ページ21
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『高校1年生の天才ピアニスト・相原美春さんがチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で、初出場にして優勝を飾りました！ 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。全てを兼ね備えた美少女ピアニスト、相原美春さんに迫ります！』
スケッチブックを片付けていると、不意にそんな声がテレビから聞こえる。相原、という単語に反応するが、生憎苗字が同じなだけで千秋とは関係がない。―――そうだったらいいのに。相原美春とは、齢16歳にしてプロをも容易に越えるピアノ実力を持つ天才ピアニスト。…そして、千秋の血の繋がった妹である。
始めにピアノを習い始めたのは千秋だった。だが、その後を追い掛けるようにピアノを始めた美春はその才能を開花させ、次々とコンクールで一位をかっさらっていった。いつしか千秋はピアノから離れ、触れる機会もほとんど無くなっていた。楽しくなかった。姉なのに負けるピアノなんて。勝ち負けのあるピアノなんて。
『殺人の冤罪を掛けられたお姉さんの無罪を主張したことで世間を騒がせておられたんですけど…その後お姉さんとはどうですか？』
『お姉ちゃんはまだ帰ってきてなくて……このままずっと帰ってこなかったらどうしようって思うと……』
『そう、美春さんには思いもよらぬ出来事が……』
「………え???」
“姉の失踪”そう大きく文字が書かれたテレビには、美春の涙ぐんだ顔が映っていた。なんと、自分がイタリアやらアメリカやらでてんやわんやしている内、日本では千秋についての裁判が起こっていたらしい。そして、その裁判を起こしたのは美春であり、そのことで少し世間を騒がせたのだとか。やはり日本の警察は優秀で、犯人が観菜であると突き止めたらしい。が、突き止めた頃には千秋はバラトと行動を共にし、また観菜たちはバラトに殺されていた…。もしかしたら話を聞くだけだったかもしれないのに逃げた自分が本当に馬鹿で嫌になる。
被告人不在の裁判なんていいのか、なんて思ったが欠席裁判というものがあるらしい。…しかしそれより驚いたのは美春が「お姉ちゃん、早く帰ってきて」と涙目で発言したことだ。家での美春と言えば―――…
“お姉ちゃん邪魔。私の前歩かないでよ〜。能無しの癖にさ”
“大丈夫、お姉ちゃんは一生私の『出来損ないの』姉って言われて生きてくんだから”
“あんまり騒ぎ立てないでね。お姉ちゃんが姉とか思われたくない”
酷く辛辣で冷たいものだった。
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