ストックホルム系犯罪譚【オリジナル】

□ 第50話 史上最高の嘘吐きさん □ ページ50

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「ボク、負けるなんて思ってなかったんだけど…、バラトの思ってるよりずっと千秋ちゃんは成長したよ」
「ほー？」
「今回のゲームのMVP賞、千秋ちゃんで決まりだよ」


　部屋に残るはステラ、千秋を入れた4人。最早迷う余地もあるまいと、互いを疑い合う。ステラは積極的に相手にカマを掛けたりとゲームに対する真摯な対応を見せ信頼を得続けた。一方千秋はどんな些細な変化も見逃すか、とその洞察力を手に顔を見渡す。少しの油断も許されない中、またひとりが嘘吐きさんに殺されいなくなる。残るは3人。ステラは安心したようにため息をついた。

「まさかここまで続くなんて…計算外だったよ」
「待って！あたしは違う！」
「千秋ちゃんが嘘吐きさんの訳ないし、無論ボクは違うものそれは自分が1番分かってる…そうでしょ？」

　どの道多数決であなたは死んでしまうんだから、抵抗しても無駄だよ。ステラがそう言うと、座り込んだ女はふらりと立ち上がった。何かに取り憑かれたように。その異様さ、所謂“殺気”を感じ取った千秋はステラの反応速度を上回って走り出した。

「ステラ！」
「千秋ちゃん…大丈夫？怪我はない？…死を目前に血迷った？嘘吐きさん」
「うふっ…ふふふふ、あはははははは！！あんた達を今ここで殺せば！投票する人なんていない！なんで気が付かなかったんだろう！あはははは！」
「…気が狂ってる…」

　彼女の気持ちは分からなくもない。死を目の前にするとどうしようもない恐怖が自分を襲い、逃げ遅れれば呑み込まれる。あっという間に彼女は呑み込まれてしまったのだ。“お前みたいな奴は怖いから逃げ出すし怖いから隠れる。要は臆病なんだよ”。彼女は死ぬのが怖くて、それを阻止するために自分たちを殺すことを選んだ。いつか自分も進みそうになった道。彼女はきっと、こんなふうに犯罪者になってしまったのだろう。

「…これ以上罪を重ねないで」

　千秋は刃物を振りかざす女の腕をすり抜けて抱き締めた。「死ぬのは、怖いよね…」そう言って千秋は刃物をゆっくり奪い取り床に転がした。ごめんなさい、その意が、哀情がこもった青色の瞳が女を射抜く。暫くして、部屋はステラと千秋だけになった。嘘吐きゲームは終わった。…そう、思ったのに。いつまで経っても部屋から出られる兆しはない。

「こんなに長く続くとは思ってなかったよ正直！楽しかった〜！」
「…ステラ……」


「…なんてね」


　ステラはにこりと笑いながらも無感情にそう言った。

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