□ 第40話 ごめんね □ ページ40
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「どうしたの?千秋ちゃん」
投票タイムだと言うのに一言も喋らずただ拳を震わせている千秋に気が付いたステラは、少し屈んで千秋の顔を覗き込む。するとステラは目を見開いた。千秋は俯いて、ただ目元に溜まった涙が溢れないように必死に唇を噛んで耐えいていた。バラトに抱き付きたい、助けて貰いたいけれど。彼には彼の闘いがある。恐らく命がけだ。なのに自分ばっかり助けてもらう訳にはいかない。でも、怖くて仕方がない。
「もう、やだよ……怖いよ…!」
「…何が怖いの?千秋ちゃんに指指してる人なんていないじゃない」
「そうじゃないの…!……私が指を指して…それで、人が誰か死んじゃうのが怖いの…!」
ステラはそれを聞くと悲しそうに眉を下げ、震える千秋の手をとった。千秋は手袋越しに伝わる確かに生きたステラの優しい体温。自分の手から視点を移し、繋がれたステラの手から腕へ、腕から肩へ、首へ、顔へ。その顔は優しいけれど、慈悲がないようで、あるようで。
「千秋ちゃん。世界は千秋ちゃんみたいに優しくないんだよ。ボクだってそう」
「……」
「少なくともこのゲームは千秋ちゃんの望むような優しいゲームじゃない。そうでしょう?」
「…そう、だけど…」
「ボクね、バラトから頼まれてるの。千秋ちゃんが死なないように。…ごめんね」
そう言ってステラは千秋の手のひらを人差し指だけ立てて握らせ、先程の男へと向けさせた。ステラがその時思っていた事と言えば一時間以上前の事だ。バラトに着せる服をステラとデウスで選んでいたときだ。椅子に前のめりに座ったバラトが二人に話し掛ける。
“…そうだ。ステラ、デウス”
“ん?何?”
“もし今日行われるゲームで俺がアキの側にいられないで、逆にお前らがアキの側にいたら、お前らがアイツを守ってやってくれないか”
“…お前ほんと千秋が好きなんだな”
“アイツは死なせるにゃあ惜しいんだよ。特別な人間だ”
彼がどうして千秋をここまで特別視するかなんてとうに知っている。どこか羨ましいと言うか、嫉妬に似た寂しい感情を覚えていた。まだ何でも屋を始めたばかりの時、大金を差し出してこれで足りるか、と仕事を要求してきた彼を忘れることはない。何かと面倒を見てくれて、兄のような存在に思っている自分がいた。でも分かっている。自分は彼の言う“見付ける側”の、“気付く側”の人間ではない。気付くことができる彼女だからこそなのだ。ステラは目を伏せて微笑むと千秋の手を離した。
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くろせ(プロフ) - 漣さん» ほんとですね!誤字報告ありがとうございます!訂正致します! (2019年4月2日 17時) (レス) id: 09d294978c (このIDを非表示/違反報告)
漣(プロフ) - いつも更新楽しみにしている者です。42話の「ステラは別の本物と思われるダイヤモンドを取りだし、そのまま逃げ出した。」という文章なのですが、デウス君ではないでしょうか?勘違いでしたらすみません!コメント失礼しました。 (2019年4月2日 17時) (携帯から) (レス) id: b835eb55b1 (このIDを非表示/違反報告)
飴ん子(プロフ) - くろせさん» ああ、そうでしたか。すみません!!! 了解です、その機会があれば、またコメントします。バラトニキと千秋ちゃんがすこなのでお気に入りに登録します。改めて失礼しました。 (2019年4月1日 14時) (レス) id: 1a98819731 (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - 飴ん子さん» すみません、今はキャラクターは募集しておりません…。また続編とかで募集すると思うので、その時までお待ちくださいませ! (2019年4月1日 13時) (レス) id: 09d294978c (このIDを非表示/違反報告)
飴ん子(プロフ) - 素敵な一次創作ですね…!バラトさんすこ。(唐突) この素敵な企画に是非ともキャラクター提供したいのですが、どうでしょうか? (2019年4月1日 11時) (レス) id: 1a98819731 (このIDを非表示/違反報告)
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