ストックホルム系犯罪譚【オリジナル】

□ 第15話 嫌厭共犯者 □ ページ15

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「…え？」

　無表情に「お別れだ」と言ったバラトに千秋は頭が真っ白になり口がぱかっと開いてしまう。確かにバラトを怖いと思ってしまった、でもそれとこれは違うじゃないか。そう口に出そうとする前に口の中に飴が差し込まれた。思っていたよりも甘いが、苦味も強かった。刺激の強い味に一度口から出すと、千秋は理由を聞いた。意味のない犯罪をしないなら、意味のない別れもないはずだ。

「…はぁ、意味なんてないっつっても引っ付いてくんだろどうせ」
「勿論。…なんで？」
「…」

　バラトは溜め息を吐いて千秋の足元に何かを投げた。すると音が流れ出す。先程の音声だ。千秋は瞬時に理解した。これを使えば普通の生活に戻れることも、自分の無罪がわかることも。千秋がそれを拾い上げると、バラトはくるりと背を向けて歩き始めた。が、数秒後には動きを止めた。音があったからだ。アスファルトにプラスチックが当たる音、止まった録音音声。千秋は録音機を地面に叩き付けていた。

「お前何して―――…」
「お願い、私を誘拐してバラト」
「……あ？」
「料理も掃除もなんでもするし、なんでも言うこと聞くから…！きっと、家に戻ったって…何も変わらない…」

　バラトが振り返ったところを千秋は抱き締める。でないと置いていかれそうで。バラトはそれに驚いて目を見開く。生きた人の体温に慣れず蕁麻疹が出そうだった。イライラして仕方がないのだが、千秋があまりにも固く抱き締めるモノだから離そうにも離せない。

「お前俺が誰かわかってんのか」
「分かってる」
「捕まるかもしんねーぞ」
「世紀の大犯罪者でしょ？」
「覚悟できてんだろうな」
「できてなかったら言わないし」
「……はぁ。俺は保育士じゃねぇからな」

　バラトと居たって家に居たってロクなことがない。一度失った名声は返ってこないのと同じように、信用も返ってこない。みんなして私を悪だと言うのなら。そう考えながら、千秋は強気に下からバラトの赤い瞳を睨んだ。バラトは厭そうな顔で溜め息を吐いた。千秋はそれを見てどこかバラトに似た怪しい笑みを浮かべた。気色悪ィ、とバラトがデコピンしようとしたところを、腕をがしっと掴まれる。掴まれた腕は下へと下ろされ、額とは遠く離れた。バラトは「ったく、面倒なガキが来たもんだな」と頭を掻いた。

「私、相原千秋。今から共犯者ね。よろしく」
「…バラトだ」
「ちゃんとよろしくしてよ」
「あ？……」




「よろしくな共犯者ちゃん」



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