□ 第13話 言ってみろ □ ページ13
.
千秋はこの時初めて彼が“本物”であることを悟った。その場に立っているだけでも爪先から駆け巡る恐怖。嫌悪。それは紛れもなく『悪』を目の当たりにした時のモノで、それを発せられるのはきっと心の性根から犯罪者の者だけだ。その中でも生粋、世界一の犯罪者。それがバラトだ。何故今まで信じなかったのだろうと思うほど、彼が本物であることが明確になっていく。先程まで掴んでくれていた手は?自分を「クソガキ」と呼ぶあの声は?あの棒つきキャンディの甘くて苦い香りは?自分の見てきたバラトがなんなのかわからなくなるほどの犯罪者の本性を震える瞳で見つめていた。
観菜の意識はもうほぼなく、呼吸をするのがやっとだった。バラトはくるりと観菜に背を向けると、自分を照らす太陽を背に両手を広げ高らかに笑った。といっても逆光で彼の表情自体が笑っているかはわからない。観菜はそんなバラトにもう完全な恐怖を与えられ圧倒的悪を前に震えて見上げるしかなかった。
「彼のピカソや…現代で言えばバンクシーの描く“芸術”が…、美しいと評価される理由がわかるか」
「評価され、る……理由…?きれい、だから…?」
「それは勿論大前提だ。しかし全てはそれを描いた『意味』にある」
「(意味……)」
「例えばピカソのゲルニカ。空爆が起きた頃だ、あれが描かれたのは…。助けを求める民衆、頭を垂れた子供を抱えて泣き叫ぶ母親、狂ったように雄叫びを響かせる馬。空爆に苦しむ政治的な絵だ。なのにピカソは言った『物があるままに物を描くのだ』と。どういう意味か!わかるか?」
千秋はバラトが自分に話した『理由』を思い出した。―――…断言する俺が拐わなかったらお前は絶対殺しを犯した。そんな犯罪に意味はない。…千秋にはバラトは純粋に芸術を愛している様に思えた。その歪み汚れ壊れた表面の奥に、何処までも暗く深く美しい純粋さがあるのではないか。その赤い瞳の奥にそれがあるのではないか。そう思えた。
「自分では意味を込めて描いていないのかもしれない。俺はその芸術の“意味”に気が付いて欲しい!俺の起こした犯罪の意味に気が付いたとき!その瞬間俺の
「………」
「さて、以上を踏まえて、だ。杉崎真央ォ!佐田勇治!!井田優成!!!小杉澪ォ!!!お前らの暴力に意味はあったか?言ってみろ!」
力なく倒れた観菜を蹴り転がして五人を固める。千秋は後退りして電柱にぶつかりずるずると座り込んだ。
69人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くろせ(プロフ) - 漣さん» ほんとですね!誤字報告ありがとうございます!訂正致します! (2019年4月2日 17時) (レス) id: 09d294978c (このIDを非表示/違反報告)
漣(プロフ) - いつも更新楽しみにしている者です。42話の「ステラは別の本物と思われるダイヤモンドを取りだし、そのまま逃げ出した。」という文章なのですが、デウス君ではないでしょうか?勘違いでしたらすみません!コメント失礼しました。 (2019年4月2日 17時) (携帯から) (レス) id: b835eb55b1 (このIDを非表示/違反報告)
飴ん子(プロフ) - くろせさん» ああ、そうでしたか。すみません!!! 了解です、その機会があれば、またコメントします。バラトニキと千秋ちゃんがすこなのでお気に入りに登録します。改めて失礼しました。 (2019年4月1日 14時) (レス) id: 1a98819731 (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - 飴ん子さん» すみません、今はキャラクターは募集しておりません…。また続編とかで募集すると思うので、その時までお待ちくださいませ! (2019年4月1日 13時) (レス) id: 09d294978c (このIDを非表示/違反報告)
飴ん子(プロフ) - 素敵な一次創作ですね…!バラトさんすこ。(唐突) この素敵な企画に是非ともキャラクター提供したいのですが、どうでしょうか? (2019年4月1日 11時) (レス) id: 1a98819731 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ