▽ ページ23
.
走って、走って、ようやくたどり着いた場所。いつもの場所。風が吹いていたはずなのにここは感じられない。荒れている息を整えて、彼を待つ。妙に青白い月が木々を照らしていた。
ふと、強い風が吹いた。木々が荒々しく揺れ、思わず目をつぶる。一瞬か、はたまた数秒か、数分か、どの位吹いていたのかは分からないが、その時間は、私にはすごく長く感じた。
ゆっくりと、目を開ける。逆光で、視界が滲んで、良く見えなかったけど、彼は居た。確かに、視えていた。頬に涙が伝う感覚がする。ぐっちは慌てて私の涙を拭った。頬に触れられた手に触れ、ようやくと安堵できた。ああ、存在している。そんな私を見て、ぐちつぼは首を傾げた。
「……逃げねぇの？」
「逃げないよ。……ねぇ、ぐっち」
「ん？」
ああ、その顔。慈愛に満ちたような表情。優しい目で、少し口角を上げているその顔が、懐かしくて、愛しくて。
「ぐっち、私を……殺して」
「は？」
何を言ってるんだと言う顔で私を見る。お願い、と迫れば困ったように視線を泳がせた。
「ほ、本気で言ってんの？」
「本気だよ」
ジッと見つめていれば冗談じゃないのは伝わったらしく、もっと混乱していた。そしてゆっくりと首を横にふった。
「……いやだ」
「何で」
「……お前を、俺が殺せるわけねぇだろ」
好きなんだ。
思わずその言葉に目を丸くしてしまうがそれでも、折れるわけにはいかなかった。
「……私も好き」
「ならっ、」
「好きだからっ、好きだから、殺してほしいの」
ぐっちは顔を歪める。
もう一度、私は言った。
「ねぇ、私を殺して」
ザワザワと、まるで私たちの心情を表すかのように木々が揺れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 52人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ペリドット(プロフ) - すいみん。さん» わー！ありがとうございます！フフッ、ラストまでよろしくお願いします。応援ありがとうございます！ (2021年9月19日 1時) (
レス) id: 3df4378748 (このIDを非表示/違反報告)
すいみん。(プロフ) - もうべちょべちょに泣きました…。めちゃくちゃ好きです、妖パロ…いいです…。とても…。次回の更新も楽しみにしております、無理せず頑張ってください! (2021年9月19日 1時) (レス) id: 89ac922806 (このIDを非表示/違反報告)
ペリドット(プロフ) - ズイさん» 誤字指摘ありがとうございます……黒髪黒目ですねぇ…… (2021年7月28日 16時) (レス) id: 3df4378748 (このIDを非表示/違反報告)
ズイ - 夢主のプロフィールで‘‘黒髪黒髪``と、2回繰り返されているんですけどあっているのでしょうか？ (2021年7月21日 14時) (レス) id: a75775cd99 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ペリドット | 作成日時：2021年5月6日 19時
