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「ってことで、私はここでなんとなく過ごしてるってわけだよ」
「……なるほど」
店主に不審に思われないよう、小声の相槌が返ってくる。人と話すのが久々で、少し目の奥が熱くなった。
「ずっとここにいたのなら」
私の身の上話を聞いてくれていたショッピが、口を開いた。
「お墓参りしても、意味ないっすね」
「確かに。自分のお墓の場所わかんないな。お墓がわかれば、親族とかにも会えるかもしんないけど」
「会いたいんですか？」
「そりゃあ、会いたいよ。満足して成仏できたらいいなって」
ショッピは黙ってコーヒーを飲む。結局、紅茶は私の前に置かれたまま。飲めないと言っても、わかってます、とだけ返ってきた。
「何一つ思い出せないんだけどね、この場所はなんとなく好きなの。生前は常連だったのかもね」
窓の外に目をやる。寂れたカフェ。ここに通うようなら、私の生活圏域はこの辺りだったのだろうと思う。
「あと、もうひとつ覚えてるっていうか、感じることがある」
「なんすか？」
「たぶん私、バイクがすき」
がしゃん。
目の前のショッピがカップを落としそうになり、大きな音がたつ。特に溢れてはいないようだ。
「なに、びっくりした」
「ホンマに？」
「えっなに、なになに」
ショッピが前のめりで聞いてくる。
「ショッピもバイク好きなの？でも私、あんまり詳しくはないんだよ。ただ、通ってるの見たら目で追っちゃうの。なんとなく好きだなーって思いながら」
「……そうなんすね」
「そうなんだよ」
再び沈黙。ショッピはうつむいてコーヒーを見つめている。バイクに食いついてくれたのに、あまり話せなくて申し訳ない。
「…………よかった」
蚊の鳴くような声で、ショッピがそう言った。
なにが、と聞き返そうとして、ぎょっとする。
「なん、なんで、そんな泣きそうな顔」
顔を上げたショッピは、涙をこらえているような顔で、無理やり口角だけあげたような、そんな表情をしていた。自嘲しているようにも見えるその表情のまま、ショッピは言った。
「バイクと、……俺のせいで、Aは死んだのに」
ーバイクと俺のせいで、Aは死んだのに。
その一言を聞いたとたん、私は、奥底に沈んでいた記憶が呼び覚まされたような気がした。
そうだ、私は。別にバイクが好きだったわけではないのだ。
好きだったのは、バイクではなくて。
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瀉天 - 先輩後輩ってオレンジ？ (2020年6月21日 13時) (
レス) id: 55ffdc0025 (このIDを非表示/違反報告)
ゴミ箱 - めちゃめちゃ良かったです！沢山の作者さん、主催者さん、ありがとうございました！ (2020年5月18日 8時) (レス) id: 94cbebf757 (このIDを非表示/違反報告)
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