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またある日、私の部屋に彼は来た。
無愛想な顔つきをしながら、彼はソファに腰掛ける。なにかに苛ついているのか、顔に変化はないものの、足が今にも地団駄を踏みそうな勢いで揺れていた。
「なにがあったの？」
普段会う時もそこまで話さないが、ここまで言葉を発しない彼を私は見たことがなかった。そこで当たり障りのない言葉を選び投げかけてみる。すると、彼は一瞬顔を歪ませると、話し出した。
そこからのことはよく覚えてない。ただどうやら、私のことがバレたらしい。帰りが遅くなった彼を不審に思った奥さんが調べていたらしく、そこで呆気なく浮気が発覚。こんなに綺麗にバレるとは、逆にここまで隠し通せたことに疑問をもつ、が、結局バレてしまうことは確実だったのだろう。私はそこまで驚かない自分に驚いた。
「どうすんの」
驚愕で何も考えられずただ私は彼に問う。
聞かなくてもわかっていた。どうするべきか、どうなるべきか、どうしなきゃいけないべきか。
「……」
黙りこくる彼。その表情からは何も読み取れない。そんな彼を見て、私は言ってはいけない言葉を口にしてしまったのだ。
「私は、やだよ。」
ハッとして口を噤むが、もう遅い。
彼の目が大きく見開かれる。ごくっと息を飲む音が聞こえ、胸がどくんと脈だった。
言っちゃいけないのに、彼の答えなんてわかっているのに。
自分が傷つくだけだから、言っちゃいけないってわかってたのに。
「……ごめんな。」
頭をガツンと殴られた感覚が襲う。こんなのわかりきっていたことなのに、何故こんなに痛いのだろう。
「…………っ」
このまるで監獄のような部屋からでるため、玄関で靴を履いていた彼が私を見て顔を顰める。
なんで、と思ったが理由はすぐにわかった。
「ありがとう、さようなら。」
また会える日まで、なんてベタな言葉はこのお別れに似合わない。
バタンと閉まるドアを見つめ、一人呟いた。
「シッマ…ッ、コネシマくんに、酷い顔、見られちゃったなぁ……」
床に水滴がポタリと落ちた。
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