テスがただ後悔するだけ ページ9
「人間」
テスは掠れきった声だった。静脈血の色の涙に濡れた頬を拭う事もせず、ただ言葉を紡ぐ。項垂れ、半ば跪くように。
「お前なんて嫌いだったんだ。ずっと嫌いだった」
犬飼はテスにとってかけがえのない友だった。孤立しがちなテスを気にかけ、声をかけていた人間は犬飼くらいのものだった。しかしテスはその犬飼に、そう言う。
「お前は人間のくせに私と同じくらい強くて……私に喰われる人間のくせに、私と友達になろうとなんかしたんだ」
その傲慢さが、嫌いなんだ。私と友達になろうだなんて。
血の涙が溢れ、地面に滴り落ちる。テスがそう吐き捨てると同時に、一陣の風が吹く。テスの長い前髪が濡れた頬に貼り付いた。みすぼらしい灰色の髪が、赤く染まる。
「人間、どんな気持ちだったんだ。私と友達になって、そして私を裏切って」
楽しかったか?テスはそう言ったが、分かっていた。犬飼は自分を裏切ったわけではない。ただ、価値観が違っただけ。そして、テスが勝手に彼に期待し、そして失望しただけなのだ。
「お前なんて嫌いだ」
テスは目の前の墓石にそう言う。
「お前と、お前の妻と、私と……どうして生きてくれなかったんだ?人間のままでいる事が、永遠を生きる事よりも大切だったのか?」
犬飼は、答えない。
1人がお気に入り
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ