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日が沈み夜になる。牛崎氏の怯えは暗くなるにつれ増大していった。ついに消灯されると、牛崎氏はもう何も言わずただ震えるだけとなった。人間であれば何も見えない暗闇ではあったが、吸血鬼には室内の様子がよく分かった。夜の怪物である彼(あるいは彼女)は夜目が効くのである。
吸血鬼は不貞腐れていた。あの後時間の限り調査を行ったが結局医者の正体はわからずじまいであったのだ。このままでは追加報酬がぱぁである。スイパラに行けないのは死活問題だ。名物の特大パフェが食べられないのは実に困る。
この際でっちあげてしまおうか。しかしそうすると後が怖い。叱られるだけならまだ良いが最悪の場合祓われてしまうかもしれない。吸血鬼はまだ死にたくなかった。特大パフェも大事だがそれより命の方が重い。
吸血鬼は鉄バットを構え、牛崎氏の横たわるベッドの縁に座る。いつ出てきても始末できるよう、気をはりつめる。
「そういえば、医者の特徴を聞いていませんでしたね。どんな姿をしていたんです?」
暗くて姿は見えなかった、と牛崎氏は答えた。ならばなぜそれが医者だと分かったんですかと吸血鬼が問えば、語りかける口調からそう判断したのだそうだ。そうですかと返答したその時、病室のドアが音もなく開いた。ぶわりと室内におぞましい何かが広がるのを感じる。それは死臭だ。直接嗅覚に作用するようなものではない。もっと本能に揺さぶりかける場所に響く、何か。
光も音もなかったが、牛崎氏も死の訪れを感じ取ったのだろう。かすかな呻きをあげる。それは悲鳴だった。
吸血鬼は死を観察する。それは、確かに医者のようであった。五人くらいの人間の中身や外側を適当にバラバラにして、それらを無理矢理一つのヒト型にしたかのような歪な肉のジグソーパズルは、ところどころがどす黒く変色した白衣を着ている。美味しくはなさそうで、彼は私の空腹を治療してはくれないだろうなと吸血鬼はその医者を見て思った。
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