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その老人は怯えていた。そのあまりの怯えっぷりに吸血鬼は笑いをこらえられなかった。彼(あるいは彼女)は本来人を喰らう吸血鬼である。故に、それなりに嗜虐的であった。
挨拶をして、老人、いや、牛崎氏に用件を伝える。まずは今回の依頼内容の確認だ。
「入院中、あなたが死なないように保護する事。依頼執行期間中、私はあなたの身の安全を最優先します。成功報酬は五万円、医者の正体の確認ができれば追加で二万円……これで間違いありませんね?」
牛崎氏はこくこくと頷く。よほど死が怖いらしいなと吸血鬼はくすくす笑った。どうせ老い先短い命だというのに、どうしてそう命にすがりつくのだろう。
吸血鬼は時計を確認する。午後一時半。窓の外から降り注いでくる日光を疎ましげに睨み、吸血鬼は思案する。
医者は何らかの怪異と見て間違いないだろう。そもそも、この病院自体が明らかにおかしい。死が満ちている。この病院の空気を吸うだけで、全身に死そのものがたまっていくようだ。それに、なんだか妙な感覚もする。病院に見られているような、いてはならない場所にいるかのような居心地の悪さ。
医者の怪異によって病院がおかしくなったのか、あるいは病院がおかしいから医者の怪異が現れたのか。どちらかは分からないが、どちらも異常である事に変わりはない。
日が落ちる前に戻ると牛崎氏に伝えて一度病室を後にする。ひとまずは情報が欲しい。牛崎氏の身の安全を確保するだけの依頼ならそれほど手間もなかったのだが、正体を突き止める事で報酬が追加されるのだ。やらない手はないだろう。
まずはこの病院の職員や患者に話を聞くべきか。それが終わったら、この土地についても調べさせてもらおう。土地を売った不動産は院長にでも聞こう。
廊下を歩きながら吸血鬼はそう勘定する。まあ、怪異絡みならば簡単だ。殴って殺す。これでおしまい。
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