8/1 木霊 ページ1
「猫が喋った、かぁ」
その日に受けた依頼の内容は簡単なものだった。飼い猫が喋ったから、何かないか見てほしいとの事。
飼い主の男性曰く、家で寝てたら猫が耳元で囁いたのだと。動物病院へ連れていくも猫に異常は見当たらなかったらしい。かといって耳がおかしくなったとも考えられず、ここへ調査を依頼した、らしい。
木霊は目の前の猫を見る。
三毛猫だ。肉付きがよくふっくらとしており、毛並みは柔らかで綺麗だ。爪も丁寧に切られている。質の良い素材で作られているであろう赤い首輪をしている。どこをとっても飼い主の愛情を感じさせる、可愛らしい三毛猫だった。
「あなた、喋るの?」
そう声をかけてみるも、三毛猫はなあおと間の抜けた返事をするのみ。
「あなたのご主人様が、あなたが喋ったって言ってるわよ」
なあん。猫は一つ鳴いて、そのまま床に寝転がりはじめた。こちらへの警戒心がまったく見受けられない。というより、完全に舐めてる。しかし猫は可愛いから許されるのだ。木霊は猫からの目線にうっとりした。
「あーん、可愛いわぁ。調査のためって言ったら猫じゃらしとか使わせてくれないかなぁ」
猫は木霊に呆れたように尾を振って、起き上がる。とことこと歩いて、部屋の隅に置かれた猫用ベッドでくつろぎはじめた。
木霊はうーんと唸る。可愛い可愛いとはしゃぎすぎてしまったが、はてさてどうしたものか。あの猫からは妖力や魔力といったものを特に何も感じない。ただの猫にしか思えないのだ。もしかすると力の操作に慣れている妖怪かもしれないが……判断に迷う。
異常性はないと思うけどなぁ、と木霊は独り言をした。とりあえず、そう報告しておこう。見る人が見たら分かるかもしれないが、木霊はあまり相手の力を測るのは得意でなかった。
多分飼い主が聞き間違えたんだろう。鳴き声がたまたま人の声に聞こえたとか、そんなあたりだ、きっと。
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