信じている ページ23
そして楓は未だ展覧室で本を読んでいた。が、それは先程と変わらない。
《ｷｲ…》
するとまた、新たな客人が来た。
楓
「…、今度は何だ？」
ー…葵。
楓はそう呼ぶと本から視線を外し、
楓を見たまま後ろのドアを閉める葵に視線をうつした。
葵
「…久しぶりだから。話したいことがあるの。」
そう言うと、葵は楓の隣に立った。
楓
「…何だ？」
楓は横目で葵を見た。
葵
「姉さんは…、」
まだ、引きずってるの？
過去のー「あの日」のー事。
そう葵が聞くと、楓はフ、と鼻で笑い、
楓
「さあな。吹っ切れたといっても嘘ではないし、
引きずってないと言えば嘘になるな。」
葵
「…そう。」
そういうと葵は詠唱のように喋り始めた。
「アンタは本当に勝手だよ。勝手に飛び出し、
勝手に中に入って行く。最期まで私達の事なんか考えないで。
アンタは最期まで、天然で身勝手だった。
今だって私は怒っている。確かにアンタは、私達の命を救った英雄さ。
でも私達からすれば、勝手に助けた「身勝手な英雄」だよ。」
ーそれは、たった今楓が読んでいる、桃の著作であった。
葵
「「あの日」からは一切2人の本も読まずだったのに。どういう風の吹き回しなの？」
そういうと楓は天井を見つめた。
楓
「…さあな。私にもわからない。
…生前は、「2人を懐かしみたい。読もう。」と思っても、
体が震えて動かなかった。「また傷がえぐられるだけ？」そういう疑問があったから。
…でも今は何故かこうやって平然と読める。…きっと、私は信じているんだよ。」
2人が此処に来てくれるって事。
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