「文化祭とほんの少しの魔法」:3 ページ18
私の様子を眺めていたハヤトさんは、少し考えた後何か思いついたのか、
「Aさん」
と、優しい声で私を呼んだ。反射的に素っ頓狂な声が出たが、彼はそれを気にもせず手袋をはめた綺麗な右手で私の左手をそっと手に取り、私の前に膝をついて。
___そっと優しく、手の甲に口づけをした。
ふぇっ?と声を出す前に頭が真っ白になって、私は口をぱくぱくを動かしながらつっ立っていることしかできず。
ハヤトさんは私の手の甲に口付けた後、桃色の唇をふっと開いて妖艶に笑う。
「…どうか私と一曲、踊って頂けませんか?」
それはまるで、異国の王子が皇国の姫君を踊りへと誘う言葉。
彼の整った顔立ち、脳を溶かすような優しくかつ色気を含んだ声色。そして、その全てが揃った甘い罠の様な。
ふふ、といたずらに目を細めて笑う彼の顔は___頼れる生徒会長でも、信頼できる友達でもなく…一人の女性を射止める、男性。
「…なんて、どうでしょうか。ちょっとからかいすぎましたかね」
ふふ、と先程までの雰囲気を解すように彼は笑った。私は真っ赤になったまま固まっていて、ハヤトさんに頬をつつかれるまで意識は上の空だった。
そんなに雰囲気出てましたか?と訊ねられたので私が頷くと、彼は仕切りの向こうで衣装を脱いでいつもの制服に着替えながら、また楽しそうに笑った。
____私たちの文化祭が、始まりを告げた。
*
コスプレ喫茶は思いのほか大繫盛で、廊下に大勢の人が並んでは店内に溢れかえり…という正直予想外の光景が広がっていた。
私は配膳準備担当なので、ひたすらスイーツや紅茶をお皿に盛りつけることで精一杯。店内を覗くと、そこはメイドや着ぐるみ姿で接客サービスをするクラスメイト達の姿と、それを楽しむお客さんの和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。
「Aさん、あと少しで前半終わるので残りは私がやりますよ」
後ろから同じく前半担当のハヤトさんに声を掛けられ、彼は器用に使い終わったお皿やティーカップの片づけにまわった。軽々と持ち上げるその姿に思わず見とれてしまう。
教室に設置されていたスピーカーから、前半と後半の入れ替わりを告げる放送が流れ、教室には後半組の生徒がぞろぞろと戻って来た。
私とハヤトさんも後半組の方々にバトンタッチをして、各クラスの出し物が一覧で書かれたパンフレットを見ながら遊びに出た。
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こみ - 私もこの1年間高2A組だったのですごく嬉しかったです!幸せでした! (2021年4月4日 15時) (レス) id: a0adc0f2be (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - ばちぅ兼もてゃさん» こんにちは。コメント、そして読了ありがとうございます!続編の方は別のお話と同時進行の予定ですので、もうしばらくお待ちください。 (2020年6月20日 18時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
ばちぅ兼もてゃ - こんにちは...ばちぅ兼もてゃです...最初から最後まで全部読んでました、執筆お疲れ様でした!続編も楽しみにしてますね、もちろん読みます (2020年6月20日 18時) (レス) id: 603073c1b4 (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 蒼渇さん» 蒼渇さん、コメントありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。よければこれからもお付き合い頂ければ励みになります。 (2020年6月2日 14時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
蒼渇(プロフ) - ひぇ…めちゃくちゃキュンって来ました…好きです!!!!!!!無理せず更新頑張って下さい! (2020年6月2日 10時) (レス) id: c685f96854 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伊織 | 作成日時:2020年5月30日 14時