番外編 「加賀美ハヤトという少年の生い立ち」：１ ページ45
私の家は、いわゆるお金持ちという立場だった。
父親が立ち上げた重機等の製造を行う企業「加賀美インダストリアル」が大成功し、それ以来順風満帆な生活が保たれていた。
私は幼いながら、そんな父親を尊敬していた。そして、私に絶え間なく愛を注いでくれる母親を心から愛していた。
もちろん、跡継ぎという話も次第に浮かび上がってくるのも時間の問題だった。
私は父親の会社を継ぐ、由緒正しい加賀美家の長男。
そのことに対して抵抗もなかったし、むしろ尊敬する父親と同じ場所に立てることが嬉しく感じていた。
だから別に、両親が決めた小学校に入学した時も、受験をして中学校に進んだ時も、親の為ならばと何も気にしなかった。
あの日までは。
中学三年生の夏の真ん中。いわゆる夏休み期間、その時大好きだったロックバンドに影響されて、親に頼み込んでやっと自分のエレキギターを手に入れ、数週間経ったある日。
ギターを担いで行きつけスタジオに出向かい、いつものようにギターの練習をしようとしていた。
スタジオの扉を開けた瞬間、ふと耳に微かな歌声が流れてきた。
透明感のある中性的な歌声。クーラーの効いたスタジオ内を揺蕩うようにその歌声は響いていて、私は無意識のうちに聞き惚れてしまっていた。
歌声の聞こえる方へ足を向かわせ、考える前にとある個室の扉を開けていた。
その個室の中にいたのは、後に親友として、バンド仲間となる緑仙さんと夢追さんだった。
急に見知らぬ人物が入ってきて驚いた二人は、当然だが目を丸くして口をぽかんと開けていた。
その表情に自分の理性が呼び覚まされ、改めて自分の行動を恥じて慌てて謝罪の言葉を述べた。
「ねぇ、」
緑仙さんが話しかけてきた。怒られる、と思い身構える。だが相手からは予想外の言葉が出てきた。
「僕らの歌声、どう思った？」
緑仙さんの後ろで夢追さんが慌てて「みどり！」と呼んでいる。
私は緑仙さんの言葉にどう反応するのが正解なのかわからず、思ったことそのままを感想として口走ってしまった。
「透明感があって、高音もすごく綺麗で…とても良かったです」
その言葉をどう受け取ったのかは分からなかったが、緑仙さんは私が告げた感想を聞いて思いっ切り笑っていた。そしてその後、私の姿をまじまじと見て
「君、面白いね。名前は？それ、ギターでしょ？良かったら僕らの練習に付き合ってくれない？」
「加賀美ハヤトという少年の生い立ち」：２→←「サマータイム・メモリー」：５
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HUMIZUKI･文月 - 加賀美インダストリアルって確かオモチャの会社じゃなかったでしたっけ？まだまだ、浅いので間違ってたらごめんなさい。とても楽しく拝見しています！ (2021年8月8日 22時) (
レス) id: 600526697d (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 甘鶴摩未来さん» コメントありがとうございます。そう言って頂けて幸いです。第二幕もどうぞよろしくお願いします。 (2020年5月30日 14時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
甘鶴摩未来(プロフ) - にじさんじの夢小説を探してて、読み始めたのですが本当に素敵な作品だと思いました！第２幕も楽しみです！！ (2020年5月30日 13時) (レス) id: c441c2b911 (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 究極のかにかまさん» 究極のかにかまさん、コメント、さらにはTwitterのフォローまでありがとうございます！とても嬉しいです。頑張って書きますのでどうぞよろしくお願いします。 (2020年5月16日 15時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
究極のかにかま(プロフ) - 初コメント失礼します。興味本位で入ってみた小説なのですが、とても面白いです。Twitterの方もフォローさせて頂きました。これからも応援しています。 (2020年5月16日 14時) (レス) id: 65c58cf727 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：伊織 | 作成日時：2020年5月11日 13時
