Coda ページ6
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暫くの間、彼と見つめ合う。
彼に手を引かれゆっくりと、しかし、しっかりとした足取りで階段を下っていく。
長いようで短かったパーティーの終わりを実感し、脳裏には初めのワルツからの記憶がフラッシュバックする。
ゆったりとしたワルツ。
リズムのはっきりした激しいワルツ。
ロマンティックな大人なワルツ。
重厚なワルツ。
軽やかなワルツ。
思い出に浸っていればふと現実へ引き戻される。
皇帝である彼を見送る音楽だ。
道の中央を闊歩する彼の横を歩き、その周りでは貴族や平民問わず皆が羨望の眼差しを送り、見送る。
でもその道に終わりはあって。
足を止めれば目の前に、彼が乗る予定の馬車が停まる。
行ってしまうのね、と彼と向き合い視線を送る。
ゆっくりとこちらを向き目を合わせた彼の表情もだ。
私が貴方に、貴方が私に絡み付いていたものがだんだんと引き離され、彼が遠い存在になっていく。
名残惜しそうに離れていく彼に、私の胸は締め付けられる思いで一杯になる。
なかなか離れない私に、彼の騎士が促す。
手が、彼の温もりが離れていく。
完全に彼が離れてしまった。
最後まで私を見ていた彼は私に背を向け、ゆっくりと馬車に乗り、扉を閉める。
彼の悲しげな微笑みを最後に、馬車は走り出し、私の視界から彼が消え去る。
貴族や平民たち、国の民は彼を盛大に見送る。
またお越し下さい、とだんだんと遠ざかる彼に向かって見送りの音楽の音が大きくなる。
歓声もそれに負けじと大きくなる。
ただ、私には言い様のない感情だけが残った。
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作者名:イオ x他1人 | 作成日時:2021年6月17日 22時