【d!】終末世界 (ページ5)

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先程まではただ溶けていっていたそれは急に水分が抜けるようにシュー、と音を立てて湯気が出始めたのだ。その湯気の色は紫色に近く、脳から危険だ、と警告が出るほど命の危険を感じるものだった。

死体は水分が抜け、すっかりカラカラになり、人の形など跡形もなくなった、ただの腐敗臭を放つ緑や青紫の物体と成り果てた。

そしてそれを見ていた私は1つの考えが浮かんだ。

逃げたほうが良いのでは？

当たり前のように聞こえるが、私も混乱で正常に判断ができていないのだろう。そういう風にどこか冷静な私がそう思いながらも、本能的に何かを感じ、そう考えた時だった。

ドーン！！

大きな川にいくつもかかっていた橋だが、目の前にあるものではなく、左右に見えていた橋がそう大きな音を立て、崩壊を起こした。目の前の橋は歪んではいるが崩壊には至っておらず、少し橋の方によっていた人間が慌ててこちら側へと戻ってくる。

川の流れは突然急になり、橋の瓦礫や車、此方にもあるような緑や青紫の物体がものすごいスピードで流れていくのが見えた。そしてさらに変化は訪れた。それは目の前の橋を渡りきった後の土地にキラッと輝くものが見えたと思った瞬間だった。

キーン...

耳をつんざくような高音の音が鳴り響くと、紫の光が辺りに広がり、思わず目を閉じ、視界が奪われる。光と音が収まり、恐る恐る目を開けるとそこには先程まで崩壊寸前だった橋は正常な位置に戻っていた。

しかしその橋は真ん中あたりから腐敗し、すっかり腐った車の残骸や死体が転がり、向こうの土地は濃い霧に覆われ、空は最初の頃より分厚い雲に覆われていた。

うって変わって私の立つ土地は橋の中央あたりに位置する空を境に鮮やかな青が広がり、爽やかな風が吹いている。

そんな違和感だらけの世界に、私を含めて此方の土地に立つ人間は立ち尽くした。

全ての事の発端であるこの日のことを生き残った人々は、

“ヘスリヒの悪夢”

と呼んだ。

その名の通り、今までは見て見ぬ振りをされていた、人間の醜さが露わになった悪夢の始まりだった。