一目惚れ【 2 】 (ページ40)

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｢────緑谷が勝ったか｣

歓声がここまで聞こえてきて、俺は控え室を出た。

進めていた足を止め、そこにいる人物を睨みつける。

｢…邪魔だ｣

｢…醜態ばかりだな焦凍。｣

見ているだけで腹が立つ。

前を通り過ぎようとすると、言葉が投げられた。

｢左を使えば、障害物も騎馬戦も圧倒できたはずだろ。いい加減子供じみた反抗をやめろ

お前には、オールマイトを超えるという義務があるんだぞ

分かっているのか？｣

ぐっと歯を食いしばる。

｢兄さん達とは違う。お前は最高傑作なんだぞ｣

｢…それしか言えねぇのかてめぇは｣

歩調を緩めずに、前を向いたまま吐き捨てるように続ける。

｢お母さんの力だけで勝ち上がる。戦いでてめぇの力は使わねぇ｣

｢今は通用したとしても、すぐ限界が来るぞ

…あぁ、それとな焦凍｣

もう会場への入口が見えてきた。

苛々が募って周りが見えなくなる。

だが俺は、次にそいつが言った言葉に足を止めざるを得なかった。

｢────あの娘と付き合うのはやめろ。あれは害しか与えん｣

思わず足を止めた俺は、あの娘というのが誰のことなのかすぐに理解した。

…Aだ。

｢…何言ってる｣

自分の声がさらに低くなるのを感じた。

｢あれはオールマイトを殺すためだけに作られたものだ。ヴィランを呼び、事件を呼び、死を呼ぶ。

…ヴィランの息がかかっているものをお前の傍になど置いておけん。今すぐ縁を切れ｣

助け出された後、スパイかもしれないと声を上げたプロが少なからずいたと、Aは言っていた。

…そうか。てめぇが。

かっと頭に血が上るのがわかった。

｢…てめぇみたいな奴がいるから、あいつはあそこまで傷ついてんだろうが｣

｢傷つく？今まで数え切れないほど殺しに手を染めてきた奴だぞ。その手は両親にまで及んでいる始末だ。

…いつ牙を向くか分からない娘に、お前を殺されてはたまらん。6年前に縄につくべきだったのだ｣

忌々しい。オールマイトもなぜあそこまであの娘を守る。そいつはそう続けて。

｢────ふざけてんじゃねぇぞ。それ以上言ったらぶっ殺す｣

感情的にそう吐き捨てて、俺は会場に入った。

ただこの時俺は聴き逃したのだ。

冷静さをかいていたために、すげぇ重要なことを。

…それを、俺は後に後悔することになる。