逢引 ページ21
「中也!次あれ乗ろ!」
「おう!」
日は暮れかかってきていて、茜色の空が一面を支配していた。
わたしが指差したのは此の遊園地の中央に聳え立つ観覧車である。
嗚呼、
今日一日、楽しかったなあ。
ポップコーン食べて、白い生地でハムとかキャベツを巻いた何かを食べて、ブルーベリーのクレープ食べて…
あれ?食べてばっかだな。
否々、ジェットコースターにもお化け屋敷にも行った。
中也が意外と怖がってて、でも強がってて、可愛かったなあ。歴史ある橋を渡った時の中也の興奮のしようは矢っ張り男の子だなあって思ったり…。
意外な一面を見れて幸せだった。
そうだ。
観覧車で、想いを伝えよう。
あー、でも、わたしには無理かなあ。
何て考えながら、わたし達の番。
観覧車に乗り込む。
「……楽しかったな」
中也も又一日の感傷に浸っている様で、ポツリと呟く様に云った。
「うん。楽しかった…」
「また、来たいな」
「また来ようね」
ポツリポツリと会話が続く。わたしは足の辺りへ目を落としていた。
「なぁ、A」
ふと、名前を呼ばれて顔を上げる。
「俺は──Aが恋した俺じゃないかも知れ無ェが。俺はAと逢えて幸せだ」
何て答えれば良いか、わたしには分からず再び視線を足元へと向ける。
「…わたしも」
絞り出した答えは呆れるほどに素っ気なかった。
チラリと視線を外へと向けると、ヨコハマのビルの光が見えた。
もうすぐ、頂上。
「A、俺はAが好きだ」
ハッとして顔を上げる。
中也は外を見ていた。しかし彼の瞳に映っているのはきっとわたしが見ているものとは少しだけ違う。
頂上に着いた。
中也は優しくわたしの唇に口付けた。
中也の香りが仄かに香る。
ディープキス何かじゃない、ただのキス。
でも、其の時はわたしにとって永く感じられた。
ただのキスが此れ程までに特別に感じられるのは、互いが其処に居ることの証明の様にキスをしたからだろう。
唇が離れた。
何故かわたしの瞳は潤んでいた。
やっと、やっと望みが叶いそうなのに。
わたしの瞳が濡れていた理由と、
中也がわたしの想いも確認せずにキスをした理由
其処に何か重大な意味が込められている気がして、
でも其れに意味が無ければ──
ただの幸せで終われば──
と願わずにはいられなかった。
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爽斗 - せれな さん» 本当ですか!!ありがとうございます!!頑張ります!! (2021年8月27日 22時) (レス) id: 5b5562e114 (このIDを非表示/違反報告)
せれな - 本当に面白いです これからも応援しています! (2021年8月25日 20時) (レス) id: 6fed7b85b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:爽斗 | 作成日時:2021年7月15日 2時