〈ツイステ〉海と花束 (ページ7)

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4話ページ7

「ア～～～～～っ！だからァ、小魚ちゃんでいいじゃん！もう飽きた」

ついにフロイドがそっぽを向いて寝転んでしまう。
流石のジェイドも少し疲れた顔をしていた。
考えだして、30分は経っただろうか。
人魚は申し訳なさそうに3人の周りを漂う。
アズールは腕を組みながらその姿を眺めていた。
するとすぐに顔をハッとさせる。

「……A」

ぽつりとひとり言のようにつぶやく。

「A、なんてどうですか？」

心地よく鼓膜を揺らす響きに、人魚は笑顔で頷いた。
その様子を見てアズールも満足げな顔をする。

「なるほど、…ですが何故 A なんですか？」

「彼を見ていたらなんとなく思い浮かんだんです」

「うん、なんかキレーな感じ！」

3人は揃って人魚を見た。
人魚は首を傾げてキョトンとしている。

海では珍しい漆黒の髪と瞳。
透けてしまいそうな白い肌、キラキラと輝く碧い尾びれ。
"A"という綺麗な響きは、彼にぴったりだ。

「今日から君は A です」

「…はい！」

人魚は笑顔で答えた。

それから、Aの新しい海底生活が始まったのだ。

*
*
*

「暇…」

アズール達と出会ったあの日から、もう2ヶ月は経とうとしていた。
3人が遊びに来るまで1人でじっとしているのも飽きてしまった。

Aは何か思いつくと、珊瑚礁の間を潜り抜けて外の海へ出た。

澄み渡った水底の砂利が銀のように沈んでいる。
どこからか差し込んだ光は、鮮やかな珊瑚を照らしていた。
そういえば1人で海を散歩したことなんてほとんど無かった。

「散歩するって言ったら誰かしら着いてくるから……」

ある時は「1人で外へ出てはいけません」とアズールが着いてきて、
ある時は「暇だから俺もついてく～」とフロイドに付き纏われ、
またある時は「1人では危ないですよ」とジェイドに監視された。
この3人はいわゆる"過保護"というやつだ。
Aは正直、少しうんざりしていた。

一緒に散歩をするのは好きだが、たまには1人で散歩をしたい。

軽く伸びをして、滑るように泳ぎ出す。
あてもなく、思うがままに身体を動かした。
この洞窟フロイドと行ったな、なんて呑気なことを考えながら。
速いスピードで流れていく景色が、Aをもっと遠くへと誘った。

つい時間を忘れて夢中になってしまう。
Aはいつの間にか、全く知らないところまで来てしまっていた。