〈ツイステ〉海と花束 (ページ44)

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『楽しい遠足』-1話ページ44

( No side )

「……え、ごめん、今なんて？」

「ですから、明日、山を散策しに行きませんか？
と言っているんです」

賄いを食べている最中だった。
今日もジェイドの賄いは世界一美味しいなあ、
と思いながらいそいそと食事を楽しんでいると、
他の寮生の分を作りながら、ジェイドは
Aに話しかけた。

「そういえば、ジェイドそういう部活に入ってたよね。
なんだっけ、山を愛してるうんたらかんたら…みたいな」

「山を愛する会、ですよ」

「ああ、それそれ」と、Aは再び食事を続ける。
それにしても、何故急に誘ってきたのだろうか。
流石に1人じゃ寂しくなった…とか？

「明日は休みでしょう？
たまには外に出かけて、息抜きでもしませんか？」

「うーん…」

確かに、ここに来てからは休日も寮に引きこもりがちだった。
珍しくジェイドからお誘いを受けたことだし、
たまにはいいか、と思って、Aは頷いた。

「そうだね、じゃあ行こうかな」

*

翌日。
朝早くに部屋の扉が叩かれ、Aは飛び起きた。
時計に目をやると、時刻は7時だった。
授業がある日と変わらない時間に起こされ、
不機嫌な顔をして扉を開ける。

「A、おはようございます」

「…………おはよ」

ジェイドの爽やかな笑顔が眩しく思えて、
Aは目を細めた。
彼は運動着を着ていて、背中には大きなリュックを
背負っている。
出発する準備は万端だ。
一方、ついさっき起きたAは、
当然まだパジャマで、寝癖は爆発している。

「さ、準備しましょう」

ぐいぐいと部屋の中に押し込まれてしまう。
ジェイドは床に荷物を下ろして、Aを
鏡の前の椅子に座らせた。
霧吹きで寝癖の爆発した髪を濡らし、
櫛で梳かしながら、ドライヤーの風を当てる。
寝ぼけてされるがままになっていたAも、
ドライヤーの音で意識をはっきりさせた。

「…よし、寝癖は治りましたね。次は着替えましょう」

鏡に映った自分のつやつやな髪を見ているうちに、
ジェイドはクローゼットからAの運動着を
出した。
運動着に着替え終わると、歯磨きをして、
ジェイドの持ってきた朝食を食べて、準備は完了だ。

自分も何か持っていかなければと
リュックを開いたところで、

「ああ、必要なものは全て僕が持っていますので、
大丈夫ですよ。さっそく出発しましょう」

そう言って、ジェイドは笑顔でリュックを背負った。
本当にこの男は、用意周到すぎて、もはや怖いまである。