〈ツイステ〉海と花束 (ページ42)

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3話ページ42

「珍しいですね…Aが休むなんて」

翌日。
開店準備でカウンターを拭いていたジェイドが呟いた。
バインダーに挟んだチェック表を見つめながら
ホールを歩き回っていたアズールが、
ジェイドの言葉に反応し、足を止めた。

「体調が優れないようです。最近はA目当てのお客様がちらほら見受けられますから、売上が下がらないと良いのですが」

A目当てに来店する客がいる、というのは事実だった。
天真爛漫で、愛想が良くてよく笑う。
おまけに顔が整っていて、パッと見女の子に見える程だ。
本人は気づいていないようだが、
Aがホールに出る日は決まって満席状態なのだ。
そんな彼が休みとなれば、売上が下がってしまう
可能性がある。

フロイドは今日も気分じゃなくて、
ジェイドが拭き掃除をする姿を、
ソファに座ってただぼーっと眺めていた。
ふと、ジェイドはフロイドの顔を見て、
何かに気づいたようだ。

「…おや、フロイド。左頬が腫れていますが…何かあったんですか？」

「んー、色々ー」

答えるのもめんどくさくて、てきとうに返事をする。
天井のシャンデリアを眺めながら、
昨日のことが頭に過ぎる。

「…てかさあ、

Aちゃんの口、甘かった。なんでかなあ」

ガタン！

突然、2人は持っていたものを落とした。
そして、呆けた顔でフロイドを見ていた。

「な、な、な…！Aに何をしたんだフロイド…！」

「なにって… きす」

「「！？！？！？」」

ピシャン、と2人に雷が落ちてきたような衝撃が走る。
もう、言葉が出てこなかった。
今まで3人で大切にしてきたA。
まさか、あの能天気なフロイドが先に手を出すなんて。
いや、別に手を出してはいけないという契約を
結んでいるわけでは無いが、
なんというか、暗黙の了解、という感じだったのだ。

ジェイドは震えた声で、

「フロイド、じゃあその左頬… Aにやられたんじゃ…」

「そうだけど。…なに、きすしたのが悪かったの？」

悪びれる様子もないフロイド。
アズールは床に落としてしまったバインダーを拾い、
ズレた眼鏡をかけ直し、咳払いをした。

「悪、…くはないですけど……！？」

キスしてしまったものは、もうしょうがない。
その事実は消えない。
平然を装ってはいたが、どうしようもない苛立ちから、
アズールとジェイドは肩の震えが止まらなかった。