〈ツイステ〉海と花束 (ページ41)

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2話ページ41

「今日ちょっと汗かいたから… って、跡つけたの…！？」

「うん」

Aは噛まれたあたりを触って、顔を真っ赤にした。
そこにはぽつぽつと歯が食い込んだ跡が、
痛々しく残っている。

はだけた服を急いで着直すAの手を、
フロイドは掴んで、そのままソファに押し付ける。
頬を紅潮させ、潤んだ瞳はしっかりとフロイドを
見つめていた。
その扇情的な光景を見下ろして、思わず喉を鳴らす。

…ーああ、なんか、滅茶苦茶にしてやりたい気分。

でも、滅茶苦茶にって、具体的にどうすんの？
初めての感情に、フロイドは少し混乱していた。
ふと、図書室で読んだ恋愛小説のことを思い出した。
なんで読んだのかは忘れてしまった。

「―ねえ、Aちゃんさあ、"きす" って知ってる？」

「…キス？魚の？」

「違～う。口と口を合わせること。こんなふうに、」

「っわ」

突然近づいてくる顔を、Aは咄嗟に手で受け止める。
今度はなんだというのだ。

フロイドは指の隙間から不機嫌な目を覗かせた。

「…なんで止めんの」

「なんでって… なんか今日のフロイドおかしいよ、どうしちゃったの…―」

フロイドは話を聞かずに、
Aの手のひらをぺろりと舐める。
彼は「ひゃあ…！？」と情けない声をあげ、
驚いて手を離してしまった。
その隙に、フロイドはまた手を押さえつけ、
今度は抵抗できないよう少し力を入れた。

「やっぱり、しょっぱい」

そして、無理矢理唇を合わせた。

ちゅ、と軽く音を立て、顔を離す。
Aは驚いて何も言葉が出てこなくて、
ただパクパクと口を動かしていた。

フロイドはぺろ、と己の唇を舐め、
味を確かめた。
…あれ、今度は違う味。

「…甘っ。」

という声で、Aはハッと意識を戻した。
押さえつける力が緩んだ隙に手を抜き、
容赦なくフロイドの頬をパチン！と叩く。

「ふ、フロイドの変態…！！」

目の前の体を力一杯押し退けて、
抜け出すと、Aは一言叫んでから
自分の部屋へと走り出した。

フロイドはただ、ジンジンと痛む頬を手で押さえ、
その後ろ姿を眺めることしかできなかった。