〈ツイステ〉海と花束 (ページ37)

今日:7 hit、昨日:13 hit、合計:118,774 hit

5話ページ37

まあ、作戦が失敗したらそうするしか無いのだろう。
僕は諦めてため息をついた。

*

モストロ・ラウンジ閉店後。
僕はお風呂に入って一日の汗を流し、
パジャマの袖に腕を通す。
淡い水色のノーカラーシャツワンピースだ。
男のくせにワンピースを着るなと言われることもあるが、
人魚の僕はどうしてもズボンが苦手だった。

廊下に出ると、もう誰も歩いていなくて
シンと静まり返っていた。
僕はタオルを肩にかけ、片手で髪を拭きながら、
廊下を歩いた。

向かったのは、アズールの部屋。
流石にもう部屋にいるだろうか。
部屋の前に到着して、扉を軽くノックする。

「誰です？」

「…僕」

中でガタッと音がした。
すぐに扉が内側から開かれる。
アズールは紫色でシルク素材のパジャマを着ていた。
初めて見るパジャマ姿に、思わずじっと見つめてしまう。

顔を見上げると、アズールは余裕の無い、
苦しそうな表情をしていた。
……あれ？
なんだか、予想外だ。

「A………」

キョトンと呆けていると、
掠れた声で呼ばれ、急に抱きすくめられる。
……あれれれ…？
何もかもが予想外すぎて何も言葉が出なかった。
ぎゅう、と抱きしめる力が強くなって、
僕は咄嗟にアズールの頭を撫でた。

「はいはい、とりあえず中に入れて…」

余った手で背中をぽんぽんと軽く叩く。
アズールは何も話さなかったが、こくんと頷いた。
僕はそのままの体勢で部屋に入り、片手で扉を閉めた。

…さすが寮長の部屋だ。
部屋の中は、他の寮室よりも広く、少しばかり豪華だった。
ベッドサイドの椅子の上には本が置いてある。
読書中だったのだろう。

とりあえずアズールをベッドに座らせたが、
僕の腰に抱きついたまま動こうとしなかった。
まるで大きな子供だな、と僕は内心笑って、
再び頭を撫でた。
癖のある細い銀糸を指で梳く。

「……僕は…貴方に嫌われたかと」

「…それが嫌だったら、ジェイド付き添わせるのやめたらよかったでしょ、」

「それはダメなんです！貴方の身に何かあったら…！」

アズールは僕を見上げて食い気味に言った。
まったく、心配症にも程がある。

僕はもう、深海で3人に拾われたときのような
無力な人魚では無いのに。