【氷と炎】⑬数原龍友 (ページ35)

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Aを抱きしめて眠る心地よさに本格的にウトウトし始めた頃

不意にAが話し始めた。

「記憶がなくなるって

　どういう感覚か、わかる？」

別に僕をとがめてるわけでも、苛立ってるわけもなくて声色は穏やかで優しい音色。

せやから最初寝言かと思うたけど、どうやらAは眠れないみたいやった。

「んー……そうやな、記憶なくなるって事がないからわからへんけど

　そら自分が知らない自分の事を回り全員が知っとったら落ち着かへんわな」

「私って

　本当に記憶がなくなってると思う？」

「……どういう意味や？」

言葉の意味が深すぎて読み切れへん僕は、ゆっくり目を開けて腕の中のAを見下ろした。

見えるのは小さな頭。

腕の中にうずくまって僕に話しかけとる状態やった。

「本当は記憶はなくなってなくて

　周りの皆が私をからかってるとか、そんな事ないよね？」

「ないで」

記憶がなくなった本人からしたら信じられへんような話やし

自分が周りにドッキリ仕掛けられてる気になるのもわかる。

これが記憶一年分とかやなくて、丸ごと全部ない状態やったら何も思い出せない自分を不思議に思うやろうけど

一年っていうのがまたしんどいわな。

本当に記憶がないのか？って疑いたくなる気持ちが出てきて当然やな。

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