[axis]⑪登坂広臣 (ページ29)

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広臣side ページ29

※

「な…んでその歌？」

別にする必要もないのに少しの動揺が出ちまったけど、聞いた言葉に武は笑顔で答えをくれる。

「自分とはまた違う感情で上を目指して頑張ってる人の歌だから。

　興味があるっていうよりは…羨ましいからかなー」

それってAも同じように思ってるんだろうか。

そんな事が一瞬頭をかすめた時、メイクさんに声を掛けられて席に戻る。

このタイミングで掛けられた声にある意味救われたような感じで結局が歌う事がなかったけど、この曲の歌詞を書いた隆二が武に話しかけていた。

「羨ましいってなんで？」

「だって羨ましいじゃん。

　苦労できるだけ羨ましい。

　僕たちは抑圧制圧命令強制強要もっといろんなものがある中でどれだけ頑張っても、前に進んでも

　結局は親の掌の中で踊るだけ。"苦労をする"まで進めない。

　そこに親がいる限り苦労なんてすることがないもん。

　だから自分の意志で目指すものなんて最初からない」

そう言って、幼い武の目から突然涙が零れだしてびっくりした。

だって人の感情とは違う部分で生きてるような感じを受けていたから

まさか、この子が泣くなんて思ってもみなかった。

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