[doll]⑯登坂広臣 (ページ10)

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広臣side ページ10

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「前程落ち込まないけど、今でもこうやってAを知ってる人に会ったり

　Aとの思い出を見つけると、会いたいって気持ちが出てくんだよね…」

自分でもどういう心境かわかんねーけど

今の自分の素直な気持ちを、メンバーにさえ話していないのに今かなちゃんに話してみようと思ったのは

話せばなにか自分が楽になるかもしれないとかなちゃんに期待しかたらかもしれない。

別れてからやっと気持ちが落ち着いた事。

ストーカーから逃げる為に1人でドイツに行ってしまった事。

もう連絡も取れない事。

諦めて忘れたはずなのに、未だに大好きで婚約解消の発表もしていない事。

自分の中に溜まっていた感情を全て言葉に出すと、少しだけ頭の中が晴れたような気がした。

「もう一ヶ月以上たつのに、きっとこれからどれだけ時間がたっても

　あいつのことが忘れられない…どうしたらいいかわかんねぇ」

ずっと黙って聞いててくれたかなちゃんが、俺が話しきったのを確認してから

穏やかな声でゆっくりと自分の経験を話してくれた。

その上で苦しいばかりが恋愛じゃないけど、苦しさがあっていいと思うと

かなちゃんは言う。

「その分、次に来る幸せが凄く大きいから、きっと今の苦しみには理由がありますよ」

「…幸せくんのかなー」

ちょっとだけ投げやりに呟いた言葉に、かなちゃんは少しだけ力を込めた。

「来ますよ。人生辛い事ばっかりじゃないですから」

そう言って、グラスの中の水を一気に飲み干した。

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