[doll]⑮登坂広臣 (ページ12)

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広臣side ページ12

※

リビングで、Aをソファーに座らせて誰にも言えなかった本心を聞かせてもらう。

Aの足元にしゃがみこんで、見上げるようにして言葉を待ってると

ふっくらとした赤い唇がゆっくりとその思いを吐き出した。

「このままここにいても、またあいつはきっとやってくるから。

　その度に怖い思いをするぐらいなら、誰も私を知らない所でゆっくり暮らしたい」

そう言ったその言葉が、もう何よりの本音だと思った。

俺が好きだとか

あいつがどうとかそういうんじゃなくて…

もう疲れてんだと思う…ここで生きてく事に。

今までAを見てきて、そう思わせる事が多々あったという事実。

俺の記憶の中にもある理不尽な事がいくつも蘇る。

不躾なたくさんの視線に晒されて、嫌な思い、怖い思いをして

脅されて、連れ回されて最低限の人間性すら見てもらえずに。

押し付けられるばかりの愛情や感情に、疲れない方がおかしいと思った。

ただただ誰にも気にかけられず、自分を知らない人しかいない場所で、穏やかな時間を過ごしたいって

そう言われてしまえばもう拒む事がまたAを苦しめる結果に繋がるってわかるから。

"いってらっしゃい"そう言ってあげたいのに…まだ言えない俺を許して。

でも、ちゃんとその言葉を伝えるから、あと数時間

まだ俺の彼女でいて欲しい。

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