幻みたいな君は友達 (ページ37)

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それから、物音を聞きつけた人がぱらぱらと集まってきて、
腕に切り傷と、いくつかの打撲痕を付けた長尾くんを保健室へと連れていってもうた。

連れていかれる間もずっと長尾くんは笑顔のまま「大丈夫です、大丈夫ですから」と言い続けてたけど、結局は駆けつけてきた先生に「大事ないかちゃんと診てもらってきや」と説得されて、渋々何人かに付き添われて歩き出す。

私の周りにも、何人かの友達が「大丈夫やった？」と集まってくれたけど、私には傷一つない。

痛みは全部、長尾くんが受け止めてくれたから。

保健室に連れられていく長尾くんが、少しだけ私の方を振り返って、小さく笑う。

長尾「ほんまに、大丈夫やからね」

私はその言葉に頷いたような気がするけど、それがちゃんと表に出ていたかは分からへん。

この数分間で起きたいろんなことが頭の中で渦巻いて、思考を掻き乱す。

もし、落ちてきた物の中の一つでも
たった一つでも、長尾くんの頭に当たってたら——

そんなことを考えて、足元が竦む。
血の気が引くって、こういうことなんやってきっと私は初めて知った。

大丈夫、良かった、きっと大事ない。
だって長尾くんが大丈夫やって言ってたし、大丈夫、大事ない。

そう言い聞かせるように深呼吸をすると、ふとポケットの中の携帯が小さく震えた。

ポケットから携帯を取り出して、真っ暗な画面をタップすると、こんな大事件があったなんて1ミリも知らん呑気な男からメッセージが届いていた。

小島『受付のシフトの時間やけど、どこおるん？

長尾くんとランデブーなんは結構やけど

ちゃんと働け』

そんな呑気なメッセージを見た途端、強張っていた身体の力がフッと抜けて、私は思わずしゃがみこんでもうた。

近くにおった友達が「えっ、どした！？」と心配してくれるけど、そうやなくて。
勘違いした友達に「ちゃうよ、ごめんな」と笑いかける。

ちゃうねん、私はどこもぶつけてない。

ただ、長尾くんがおらんくなったらどうしようって、そんな起こってもないことに不安になってただけやねんで。