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上履きのままバタバタと走って体育館の裏までやってくると、ちらほら雑草が生えてるアスファルトの上にちょこんと座る長尾くんがいた。
体育館でやる演劇の機材やら舞台装置やらが立てかけられて陰になったそこは、文化祭の喧騒から切り取られたみたいに静かだった。
息を切らしながら走ってきた私を見て、長尾くんは困ったように微笑む。
長尾「Aさん、そうやって走ることあるんですね。もしかして足早いん？」
「…早ないよ、今日だけ」
長尾「そう、そっか」
そう小さく呟いた長尾くんの隣に恐る恐る腰掛ける。
座った瞬間、少しだけ長尾くんの姿勢が強張って、私も緊張した。
「さっきね、中庭ステージで、小島がバンドやっててん」
長尾「うん、そうなんや」
「それがめちゃくちゃかっこよくて、ちょっと感動してん」
長尾「………うん、」
長尾くんは少し泣きそうな顔で頷く。
たぶん彼には違うように伝わってる言葉を、ゆっくり正して、私の気持ちを伝えたい。
私は俯きかけた長尾くんの横顔を覗き込んで、出来るだけ優しい笑顔を作った。
「長尾くんと見たいと思ってん。感動したものとか、そういうの、長尾くんの隣で見たいって。
今日だけやないで？ ずっと、そう思ってる」
私がそう言うと、長尾くんはまんまるな両目をもっと丸くして、私の方を向いた。
昨日の雨の残りが光の粒になって、足元の雑草を輝かせるみたいに、長尾くんの両目がキラキラ輝く。
こんな綺麗な長尾くんに、両目が腫れた私の顔を凝視されてるのは恥ずかしいけど、目は逸らさない。
だって、ちゃんと伝わってほしいから。
「私はずっと、長尾くんのことしか見てへんよ。
ずっと、長尾くんが私のこと好きになってくれへんかなって思っててん」
長尾「——俺は、」
長尾くんのキラキラの目から今度は大粒の涙が溢れそうで、
きっとそれに気付いた長尾くんは、照れ臭そうに目尻を拭って小さく笑った。
長尾「俺は……俺もずっと、Aさんが
俺の隣におってくれたらええなって、ほんまにずっと」
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年9月24日 18時
