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(なんやねん、かっこええやん小島)
そんなことを思いながら、人混みの真ん中に佇むステージを見下ろした。
正門くんのギターも佐野くんのドラムも、ありえないぐらい上手くて、なんならちょっと引いてまうぐらい上手いけど、
小島の歌はそんなでもない。
そんなでもないのに、なんでこんなかっこええねん。
普段喋ってる声よりも少し高い歌声を、腹の底から搾り出すみたいに歌う。
その声が、
初めて聴いたその歌声が、
ただただ、格好良いと思った。
“そう 今でも
これからも”
“段々君が素晴らしくなる”
“案外どんな場所にだって行けるよ”
“きっと きっと——”
最後に伸ばした「と」が途切れる少し前、
マイクを握った小島が不意に上を向いた。
背の高い、力の強い小島の視線が空を仰いで
それからゆっくりと前を向き直すその間に、
小島『———あ、』
校舎の3階からステージを見下ろしていた私と目が合った。
マイクに乗ってしまった小島の気の抜けた声が、校内中に響き渡ってしまう。
「………ほんま、アホちゃう」
何やってんねんと、小島は佐野くんに頭を叩かれて、それで客席も盛り上がって
小島は「ごめんて」と笑ってはけていった。
格好良さで人を惹きつけて、人柄で人を離さない。
小島ってそういう人やねんな、ええヤツなんよな。
なんて、そんなことを考えて思わず口許が緩んだとき、自分の視界が霞んでいることに気がついた。
嫌や、なんで
なんで泣いてるん、私。
そう思うと余計にぽろぽろと涙が溢れていく。
長尾くんに好きやと言われて、
私も長尾くんのことが好きで、
それなのに付き合えなくて、
歌ってる小島が格好良くて泣いてる。
意味わからんって。
なんで、なんでこんなに格好良いステージを
私一人で見てるん。
長尾くんと、長尾くんと二人で見たかったんよ。
なんで、私は一人で——。
そんな気持ちでぐちゃぐちゃの顔を両手で覆った瞬間、誰もいない教室の扉が乱暴に開く音が鳴った。
後ろから聞こえた大きな音に振り返ると、
見慣れた——見飽きたって言ってええかもしれん——姿がそこにあった。
息を切らして、乱れた髪で
急いで来てくれたんやろなって思う姿で。
小島「………なんで、泣いてるんお前」
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年9月24日 18時
