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雨の中、やっぱり長尾くんは二人分の誘導棒を持って待っていた。
小島は、気付かん間に今日もそそくさと見回りに行ってしまったから、私は一人で傘をさして長尾くんの方に向かって小走りで駆け出した。
私の姿に気が付いた長尾くんは、嬉しそうに微笑んで小さく手を振る。
こんな待ち合わせじみた時間も今日で終わりだと思うと、やっぱり寂しい。
だって、文化祭が終わってもうたら
長尾くんと二人きりで歩くことなんて、たぶん一生ない。
明日が来て、文化祭が始まったら
文化祭が終わってまう。
まだ始まってもいない文化祭が終わるのが寂しいなんて、小島に言ったら「アホちゃう？」って笑われるかもしれない。
長尾「A先輩、お疲れさまです」
「長尾くんも、お疲れさま」
私がそう答えると、長尾くんは少し笑って
さしている傘を半分くらいくるっと回した。
長尾くんは陽だまりみたいな人だけど、こうして見ると雨も似合うから凄い。
長尾「クラス戻ったら委員会の方帰れへんくて、すいません」
「大丈夫やよ、みんなクラスの方も準備あるやろうし」
長尾「A先輩もクラスの方行ってたんですか？」
「いや、私は去年も委員会やっとって、クラスの方全然行かれへんかったから。クラス替えないと、みんなそのあたり覚えてんねんなぁ。『Aと小島は委員やから雑用やらんくてええよ』って」
長尾「……優しい、ですね」
「優しいけど、ちょっと寂しいで？ せっかく高2の文化祭やのに、小島の顔しか見てへん」
私がそう言うと、長尾くんは短く逡巡して
それから二つ持っていた誘導棒をぷいと私に渡した。
長尾「今年は、俺の顔も見てる」
「…ん？ うん、せやね？」
長尾「明日も、俺と、一緒に回る」
「うん、なに？ どしたん？」
誘導棒を受け取って訊ねても、長尾くんと目が合わない。
長尾くんの傘の中を少し覗き込むと、長尾くんはしぱしぱと瞬きをしてそっぽを向いた。
長尾「……やから、寂しいなんて
言わんといてください」
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年9月24日 18時
