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長尾くんが、私と、文化祭を回る、と。
「えっ、なんで？」
驚きすぎて最低の返事をしてもうた。
想定外の返事に、長尾くんも「へ？」と気の抜けた表情をしている。
「あ、ごめん嫌なんちゃうくて、ビックリしてもうて」
長尾「いや、全然あの…もう約束してたりしてますよね…！ 同じ学年の人であったり、小島先輩であったり、」
「ちゃう！ そうじゃなくて、してない、約束してない」
小島と文化祭なんて回るわけない。ただでさえいつも一緒におるのに、文化祭でまで一緒だなんて、そんなわけない。
それに、私は知ってる。
小島はあんな感じやけど、案外モテるんやで。
きっと私の知らん後輩女子とかと既に約束を取り付けてるに違いない。
「……だから、一緒に…回ってくれたら、私も嬉しい」
そう答えると、泣きそうに曇っていた長尾くんの表情がパァッと晴れ渡って。
長尾くんが、あの長尾くんが、私の一言に一喜一憂している。
そんな、嬉しくて幸せなことが、ほんまにあってええんかな。
長尾「……ぜひ！ ぜひ！ 一緒に回りましょう！ 俺のクラス、お化け屋敷やるんです！ A先輩と一緒に入れたらええなって思ってて！」
「……お化け屋敷は……やめとこかな」
長尾「ええー！なんで！」
「…お化け屋敷は、ええよ行かんで」
長尾「………もしかして、A先輩怖いの苦手ですか…？」
「苦手とかちゃうけどね！ お化け屋敷は…ほら、そういうのは……さわが、騒がれる」
長尾「騒がれるって？」
「さわがれるっていうか、その、私が騒いでまうから、ね？ お化け屋敷はええよ、行かんで」
私がそう言うと、長尾くんは心底楽しそうにニンマリ笑って、少し立ち止まった。
私は長尾くんの一歩先で立ち止まって、長尾くんの方を振り返る。
長尾くんは、やっぱり心底楽しそうに笑っていた。
長尾「怖いの苦手でも平気っすよ、俺がA先輩のこと、ちゃんと守るし」
「……私、後輩に守られてまうん？」
長尾「うん。俺がA先輩のこと守るから、だからお化け屋敷は行きましょうね」
長尾くんがあまりにも楽しそうだから、私は溜め息をついてから小さく頷いた。
やれやれ、みたいな顔をしてるけど、本当は長尾くんの言葉と表情ひとつひとつに、心臓が止まりそうなぐらいときめいてる。
お化け屋敷に入る前に死んでまわないように気をつけないとな、なんてことを長尾くんにバレないように思っていた。
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年9月24日 18時
