25 ページ25
_
ちょっと恥ずかしかったけど、私も小さく手を振り返す。
トテテ、と走ってきた長尾くんは私の前まで来て、くしゃっとした表情で笑った。
長尾「ごめんなさい、遅なって」
「ううん、そんなに待ってへんよ？」
ソワソワしながら待ってたから、30分ぐらい待ってたみたいに疲れとるけど。
実際待ってた時間は5分もない。
長尾「よかった、じゃあ行きましょうか」
長尾くんはそう言って、乱れた前髪をわしゃわしゃ掻いて笑う。
意外と骨張っているその手には、少しだけ黒いペンキが付いていた。
長尾「お化け屋敷の看板、さっきようやっと作り終わって、それ手伝ってたら遅れてもうて、すいません」
「遅れてへんよ？ 12時やったやん、待ち合わせてたの」
長尾「でも、A先輩待ってたやないですか！ ほんまは俺が待ちたかったのに」
「そういうもん、なんかな？」
長尾「そういうもんです」
長尾くんはすげなくそう言ってから、「行きますよ」と歩き出した。
私も、その背中を追って隣に並び立つ。
いつも私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる長尾くんがスタスタ歩くのが珍しくて、思わず隣にある顔を横目で盗み見ると、形の良い大きな耳がほんのり赤く染まっているのを見つけた。
「………もしかして、照れとる？」
長尾「……照れて、へん」
そう言って口許を抑える長尾くんが可愛くて、今すぐにでも抱きしめてみたかったけど、そんな度胸は持ち合わせてないから、ただ身体の芯だけが熱くなる。
そんな長尾くんの、横顔も好きやって言いたかったけど
言えない代わりに、堪えきれない笑みをこぼした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨野 | 作成日時：2022年9月24日 18時
