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知らない間に寝落ちしていたみたいで、目が覚めると、もう車は止まっていた。
フロントガラスから見えるのは、だだっ広い駐車場みたいなところだけど、車は1台も停まってない。
隣の運転席を見遣ると、長尾くんはシートに頭をもたげて眠っていた。
薄く口を開いたまま健康的な寝息を零す横顔が綺麗で、
まだ暗い空にほんのり浮かんだ月の明かりが、その綺麗な輪郭を縁取っている。
自販機で飲み物でも買ってこようか、近くにコンビニとかあるのかな、と思ったけれど
こんな健やかに眠る長尾くんを起こしたくなくて
私は、なるべく音を立てないように助手席のドアを開いた。
「………静かだなぁ」
本当に、ただ広いだけの駐車場は凄く静かで
聴こえてくるのは風の音と、波の音だけ。
真っ暗でよく見えないけど、目の前に大きく海が広がっているのが分かる。
どこに連れて来られたんだ、とはちょっと思ったけど、そんなことは端に置いておいてしまえるぐらい、海が近い。
こんな夜中に、レンタカーで突然海に連れ出す
そういうところが、本当に長尾くんらしい。
私一人じゃ、絶対に来ない場所だ。
長尾「——Aさん、起きたん？」
ドアをバタンと閉める音の後、長尾くんの寝ぼけた声が聞こえてきた。
寝起きの長尾くんは、瞼が腫れぼったくて
本人は「浮腫みやすいの嫌や」ってよく言ってるけど、私はその寝起きのぼんやりした長尾くんの顔が、存外好きだったりする。
完全無欠の恋人である長尾くんの、唯一見せる無防備な姿みたいで、愛おしく思う。
「ごめんね、起こした？」
長尾「ううん、大丈夫」
「海、来たかったの？」
長尾「来たかったっていうか、Aさんと来たかってん」
「そう、そっか」
ぼんやりした会話が、まだ暗い空に溶けていく。
長尾くんに出会って、
私は長尾くんに、初めての場所にたくさん連れてきてもらってる気がする。
夜の海だって、こんなにじっくり見たのは初めてだ。
長尾「夕日はさ、お互い仕事あるしなかなか見られへんけど、朝日なら見られるんちゃうかなって」
目を擦りながら、長尾くんは私の隣に並び立って伸びをした。
猫のようにしなやかに伸びる姿が綺麗で、やっぱり君が好きだと思った。
好きだと思えば思うほど、胸が締め付けられるように痛い。
長尾「俺の好きな景色、Aさんにも好きになってもらいたいから」
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年7月31日 22時
