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一方その頃、長尾くんと健ちゃんに置いていかれた気まずい二人が廊下に残っていた。
少し離れたところに立つ道枝くんは、もう心の底から気まずいみたいな顔で小さく会釈する。
道枝「えっと……Aさん、今日俺らの取材、でしたっけ？」
「あっ、いや、今日はAぇさんの取材で、」
道枝「あぁ、あー！だから小島くんと喋ってたんですよね、そうですよね、すいません」
道枝くんはそう言って、両手で襟足を梳かした。
謝るようなことじゃないんだけど、道枝くんにしたら、それ以外の言葉が見当たらなかったみたいで、私の方が申し訳なくなってくる。
道枝「ほら、長尾からようAさんの名前聞くから、今日もAさんなんかなぁ〜って！思っただけなんで…！」
「えっ、よく聞くの？ 私の名前」
道枝「あ、いや……よく聞くっていうか、あの、いや、そういうんじゃない……わけでもないか」
「そう、いうの……なんだ？」
道枝「いやあの、ほんまにアイツが浮かれてるだけっていうか…！ それだけなんで、ほんまに、気にせんといて……ってのも無理ですよね…」
一人で堂々巡りにハマってしまった道枝くんは、顔色をコロコロ変えながら頭を掻いた。
「何の話？」ってとぼけられるほど、私もバカじゃないので、私も私でどんな顔をしたらいいのか分からなくなる。
恋して、悲しんだり苦しんだりするぐらいなら、別にもう凪いだ日々でいいのに。
そんな、心にもないことを身勝手に思う。
道枝「でもあの、アイツも……長尾もAさんを困らせたいわけじゃないと思うんです、だから——」
道枝くんは、小さく息を吸ってから
困ったように笑った。
綺麗な顔の彼は、心も綺麗だから
ちっぽけな私は居心地が悪い。
たぶん、いま心の底から気まずいであろう道枝くんよりもずっと、居心地が悪い。
「戻ったで〜」って呑気な健ちゃんの声が早く聞こえてこないか、なんて思ってる。
道枝「——だから、長尾のこと……忘れんといてあげてください」
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年7月31日 22時
