初心な僕らは恋を知らない (ページ17)

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長尾side

そんなふうに心ここに在らずでおったら、不意に後ろから日焼けした腕が伸びてきて、俺の携帯の画面をタップして、
携帯の画面はパッと着信中に変わった。

長尾「ちょちょちょ、何やってん！」

高橋「だってお前絶対チキってすぐかけへんやろ」

長尾「そう、やけど…！も〜！！」

勝手に着信中にされた携帯から「もしもし」と機械音に変換されたAさんの声が小さく聞こえてきて、俺は慌てて携帯を耳に当てた。

みんなは息を止めたみたいに静かにしとって、高橋くんだけ「ごめんて」と小さく答えた。

長尾「もしもし…あの、ごめんなさい、いきなり」

『ううん、大丈夫。私もすぐ返せなくてごめんね』

1ヵ月ぶりに聴くAさんの声は、変わらず優しくて(あぁ、やっぱりまだ好きやなぁ)なんてことを思う。

『それで、どうしたの？話したいことって』

Aさんは優しい声のまま、そう訊ねる。

話したいこと、
話したいこと。
話したいことも、聞きたいこともいっぱいある。

なんで急に別れようなんて言い出したん？
ほんまにAさんは俺のこと、ずっと好きじゃなかったん？
もし好きじゃなかったら、なんであの時泣いてたん？
俺は今も、Aさんのことをずっと考えてるよ。
子供っぽく思われたくなくて、Aさんからの別れようって言葉に素直に頷いたけど、ほんまは別れたくなかったで。
今も、Aさんのことが好きやから。

そんなことが一気に頭の中で暴れ出して、
それやのに、その気持ちは一つも言葉になってくれない。

吃りながら出てきた言葉は、なんの意味もない他愛無い言葉やった。

長尾「えっと、Aさんは元気にしとる？」

『……元気だよ。長尾くんは？』

長尾「俺は——」

俺は元気じゃないよ。
Aさんに振られてから、ずっと。
元気なくなってまうぐらい、俺はAさんのことが好きやってんで。

また、新しい言葉が頭の中を埋め尽くすけど、やっぱり一つも口には出せない。

隣に座ってる流星くんが、(けんと！これ！)と小声で俺を呼んで、携帯のメモ画面を見せてくる。

“謙杜が思ってること、素直に言うたらいいの！
Aさんは絶対嫌に思ったりしないから！”

その文章を目で追って、流星くんの方を見ると、流星くんは大きく、力強く頷いた。

他のみんなも同じように、俺の方を見ている。

俺の思ってること、
俺が、Aさんに伝えたいことを、素直に。