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長尾「Aは、夏休みどっか行くん？」
「いや、ずっと夏期講習やよ。私、受験組やし」
もうすっかり生徒もいなくなった校内をダラダラ歩きながら、なんとなく遠回りしながら、校門の方へ向かう。
校舎を出たら、二人で歩いて帰るなんて出来ないってちゃんと分かってるのは、たぶん私だけじゃない。
空になったペットボトルを捨てたいのに、ゴミ箱が見つからないふりをして、私たちは校舎端の焼却炉まで来てしまった。
「長尾は？夏休みどっか行かへんの？」
空のペットボトルをポリバケツの中に放ると、カランと軽い音が鳴った。
長尾も少し離れた場所からペットボトルを投げる。放物線を描いたペットボトルはそのままポリバケツに入って、またカランと軽い音が鳴った。
それだけのことで自慢げな表情をする長尾は、やっぱり子供やなって思う。
長尾「東京行くで。コンサートあるから」
「ふーん、楽しそうやなぁ」
長尾「楽しそう、なんかな…わからん、緊張するし」
「長尾、緊張とかするんや」
長尾「するよ！あれやねん……Jr.がな、みんな集まって……で、東京ドームやで？緊張するやろ」
長尾の口から出た予想外の「東京ドーム」という言葉に内心慄いたけど、でもその綻びを勘付かれるのは恥ずかしかったから、すげない口調で「ふーん」と返す。
長尾はちょっと拗ねたみたいな顔で私の顔を覗き込んでから、小さく笑った。
長尾「見に来てくれへんの？」
「無理やって。塾あるし」
長尾「…せやな、うん。Aも頑張ってんねやから、俺も頑張らな！」
長尾が、何か決意するみたいにそう言った。
時々感じる長尾の大人びた表情が見えて、また少し苦しくなる。
きっと、長尾はもうたくさん頑張ってるのに、慣れない地でもっと頑張らなあかんねんな。
たぶん、私の知らんところで勝手に大人になって帰ってくる長尾に、休み明けの私は、なんて声をかけていいか分からんくなってるやろうから——
「頑張ってな。行かれへんけど、応援しとるよ」
暑い夏の日差しが木陰で少し和らぐその先で、長尾が私の方を振り返る。
くしゃっと笑うその顔が、私は好きやよ。
長尾「——ありがとう。俺も、Aのこと応援しとる」
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mちゃ(プロフ) - 切ないー！2人にサチアレ (2022年6月2日 16時) (
レス) id: e046c287bb (このIDを非表示/違反報告)
雨野(プロフ) - るんさん» コメントありがとうございます！まだまだ始まったばかりですが、お付き合いいただけたら嬉しいです◎ (2022年5月15日 22時) (レス) id: 71b7fa2e9d (このIDを非表示/違反報告)
るん(プロフ) - お話の流れも雰囲気も凄い好きです！応援してます！ (2022年5月15日 1時) (レス) @page13 id: 09d5484fe2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年5月10日 21時
