3 ページ3
＊＊＊
長尾「……Aさん、イーゼルの立て方分かる？」
「わからへん…ねぇここ、ガチの人しかおらんよね…？」
長尾「ほんまそれ。Aさんがおってくれて助かったぁ」
静かすぎる美術室のなるべく端っこに椅子を持ってきたら、長尾くんもその近くに椅子を置いた。
内緒話みたいに喋る長尾くんは、その内容に反してなんだか楽しそうだ。
「長尾くんは、なんで美術にしたん？」
長尾「仕事の役に立てばええなぁって思ってんけど、普通に音楽にすればよかったって後悔しとるとこ、今」
がちゃがちゃイーゼルと格闘しながら、長尾くんは頬を膨らませる。
むしろ仕事のために選ぶんやったら脳直で音楽やろって思ったけど、もしかしたら長尾くんはそういうところがちょっと抜けてるのかもしれない。
立ち居振る舞いから、しっかりしてる人やと思ってたけど、意外と天然？
アイドルって、属性特盛りで凄い！なんてことを考える。
長尾「Aさんは？なんで美術にしたん？」
「私は……人少なそうだなって、それだけやよ」
本当にそれだけ。
それだけ、だと思ってる。
ずっと好きだったあの人のことなんて関係ないし。
また思い出したくなかったことを思い出して、無意識に顔を顰めると、長尾くんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
長尾「なんかワケありっぽいんやけど」
「ない、ワケなんてないで」
長尾「ふーん？仲良なったら教えてくれる？」
「ないってば！もうこの話終わり！」
そう言って、少し乱暴に私もイーゼルを開くと、盛大に大きな金属音が鳴った。
「道具は丁寧に扱いやー」と先生からの注意が飛んできて、ちょっと不服な声で「すいません」と返すと、長尾くんはイタズラっ子みたいな顔でニヤニヤ笑ってた。
長尾「怒られたなぁ？」
「いらんこと言わんといて」
長尾「ふふっ、おもろ」
そう言って長尾くんは楽しそうに笑った。
あの時、私は「なんやねんコイツ」って腹立ってた気がするけど、でもなんだか凄く楽しかった気がする。
高校2年の春から始まった、私の長い長い恋。
はじまりは、こんなしょうもない会話やった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 357人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
mちゃ(プロフ) - 切ないー！2人にサチアレ (2022年6月2日 16時) (
レス) id: e046c287bb (このIDを非表示/違反報告)
雨野(プロフ) - るんさん» コメントありがとうございます！まだまだ始まったばかりですが、お付き合いいただけたら嬉しいです◎ (2022年5月15日 22時) (レス) id: 71b7fa2e9d (このIDを非表示/違反報告)
るん(プロフ) - お話の流れも雰囲気も凄い好きです！応援してます！ (2022年5月15日 1時) (レス) @page13 id: 09d5484fe2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨野 | 作成日時：2022年5月10日 21時
