20 ページ20
＊＊＊
それからすぐに、夏が来た。
あんなに薄曇ばかりだった空は、毎日うるさいぐらい暑い日差しでいっぱいやし。
暑くてたまらないのに、こうやって長尾の追試を終わるのを待ってあげとる私は優しいと思う。
「待ってて」なんて言われてへんし、ほんまは帰ってもうてもええんやけど、なんか気になってもうて。
終業式終わりの教室で待つのは恥ずかしいし、だからと言って図書室でやることもないし。
でもやっぱり、帰ろかなって思う。
だって——
「………暑すぎるて」
屋上は暑すぎた。
しかも、屋上で落ち合う約束なんかしてへんし。
このまま長尾が来んかったら、たぶん熱中症で倒れる。
でも、長尾頑張ってたし。
今日「頑張ったな、お疲れさま」って言われへんかったら、夏休みになってまうし。
なんか、新学期になったら言えへん気がするから。
ジリジリと真夏の日差しが、夏服の袖を熱くしていく。
もう帰ろかなって50回ぐらい考えたその時、熱を持ったスカートの裾が、涼しい風で靡いた。
前髪が風で乱れて、それを右手で抑えた刹那
待ち侘びた声が聴こえた。
長尾「——A？」
顔を上げると、夏服の長尾が少し驚いたような顔で扉のところに立っていた。
来ないのは嫌やけど、来たら来たで何を言っていいか分からんくなる。
意地悪な、不機嫌な言葉しか思いつかない。
「……なんで来たん？」
長尾「こっちのセリフやねんけど、なんでおるん？A、追試なかったんちゃうん？」
「なかった…けど」
なんだか大人びて見える長尾の声と仕草に息が詰まる。
そんな真剣な顔するぐらいなら、いつもみたいにヘラヘラしとってよ。
私ら、友達やねんから。
そう思って俯くと、長尾の小さな笑い声が聞こえてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 357人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
mちゃ(プロフ) - 切ないー！2人にサチアレ (2022年6月2日 16時) (
レス) id: e046c287bb (このIDを非表示/違反報告)
雨野(プロフ) - るんさん» コメントありがとうございます！まだまだ始まったばかりですが、お付き合いいただけたら嬉しいです◎ (2022年5月15日 22時) (レス) id: 71b7fa2e9d (このIDを非表示/違反報告)
るん(プロフ) - お話の流れも雰囲気も凄い好きです！応援してます！ (2022年5月15日 1時) (レス) @page13 id: 09d5484fe2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨野 | 作成日時：2022年5月10日 21時
