その理由を、 ページ33
kwkm＿side
騒ぎながら歩いて、漸く店に入る。座ってから少しして、やっと一息ついてその本に手をかけた。
「あ、藤崎さん。これ、ありがとうございました」
「いえいえ……どうです？お気に召しました？」
流石の伊沢さんも、俺と藤崎さんは話しやすい席に座らせてくれた。これで席まで離されたら【伊沢拓司の真実を話します】とかちょっと盛ったタイトルの動画で炎上させてたかもしれない。
「良い話とか、感動したとは言えませんけど……少なくとも僕はこの話が好きです」
「……何故だかわからないけど好きって。そう言える人って凄く素敵だと思います。ふふっ、もっと理屈っぽい人だと思ってました」
「別に……まぁ、僕は理屈っぽい方ですよ」
「でも、それでもこの作品を好きというのに躊躇わなかった……わからなくても好きだと言うのは勇気がいりますからね」
心底愛おしげに、たった今俺が返した本を指で撫でた。
その物語は、大きな起承転結があったわけではなかった。ただ奔放な女が、ふらりふわりと生きていく話。何処がどうで、好きだとか、感動したとかいうものはない。
「……最初ビビりましたけど、藤崎さんがこんな恋をしたいって言った理由がわかりました」
話の序盤、女の遊びっぷりや母に対する冷たさが露骨で、正直な話藤崎さんの人間性を疑った。
「そうでしょう？でも、恋というよりも深い愛。一種、聖母の許しのような。全ての肯定は愛になりうるか、崇拝になりうるかってことです」
「だから借りた日、あの話をしたんですね」
この本を借りた日の夜、初めて帰路を共にして、そんな話をした。
「はい。でも、何だかんだ奔放な女の母性を感じるでしょう？」
「まぁ、辿り着いた感じはします。でも結局、男は許さなきゃいけない」
それは現実も、どんな物語も同じなのかもしれない。女の奔放を許して、冷酷を許して。結局は自分の元に留めるために必死になる。
「女が許されたいと願うのは性でしょうか。あとで山森さんに聞いてみましょ……」
伊沢さんと話す山森さんの方をチラッと見たその表情は、ほんの少し期待混じりだ。
「少なくとも山森さんが藤崎さんみたいな思考はしていて欲しくないです……」
「なっ、……失礼ですねぇ」
同じ会社にあんたみたいな人が何人もいたら気が休まらないだろう。と、思ったはものの口には出さずにわざとらしく目を逸らしてみた。
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きりは(プロフ) - 雰囲気も、言葉選びも、何もかもが美しくて、一番大好きな夢小説です。更新を辞められたのかもしれませんが、凄く幸せな気持ちにさせて頂いたのでコメントさせていただきます。お身体にはお気をつけて。 (2021年8月15日 15時) (
レス) id: 5e4309df87 (このIDを非表示/違反報告)
Loot(プロフ) - 珈琲丸さん» コメントありがとうございます！そう言って頂けると本当に励みになります。是非またいらしてください！ (2020年12月20日 12時) (レス) id: b999c2c44c (このIDを非表示/違反報告)
珈琲丸 - 文章がとてもきれいで素敵です。ご無理のない範囲で頑張ってください。ありきたりですが応援しています。 (2020年12月19日 20時) (レス) id: 13095fee98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Loot | 作成日時：2020年12月13日 0時
