ほんの少し非日常 ページ2
ちょっとだけ夜が深い。でもやっぱり街は明るくて、賑やか。何だか繁華街の喧騒って、悲しい音を掻き消すためにみんなが笑ってるみたいで、嫌いじゃなかった。
近道なのよね。
この方が地下鉄の駅に行きやすいから、ちょっといかがわしい街を抜けて、早足で改札を抜けた。
階段の最後の一段を、春色のパンプスでとんっと降りる。
あ、タイミングばっちり。
東京メトロさん、定刻通りにどうもありがとう。なんて思いつつ、いつもの席に座る。
「あれ……」
それまでは、わりといつも通りだったのに、パステルピンクのバックの中身はどこかすっきりして見える。
あ、そっか。さっき川上さんにお貸ししたんだわ。
いつもなら座って間もなく本の世界に沈み込むのに、今日はそれができない。何の拍子だったか、電車のお供である、大切で一番大好きな本を私の勤める会社の方にお貸ししたんだ。
手持ち無沙汰……というかは、物語の広がらない持て余した脳を使って今日のやりとりをふんわり思い出してみる。
確か、おすすめの本を皆さんが紹介する企画の話をしていたはず。
お邪魔しない程度にお茶をお出ししたら、伊沢さんが私に尋ねてきたのだ。
どうやら文学部に通ってることも、勤務時間外なら四六時中本を読み続けていることもご存知の様子だった。
せっかく訊いてくださったのだから、なるべく簡潔にお伝えしたつもりでいる。
オタク特有の早口で長々説明されても、きっと読む気がうせちゃうもの。
＿＿中学生くらいの頃から、一番好きな本があって。ありふれてはいないけど、恋の話、というか愛の話ですね。初めて読んで以来ずっと、こんな恋ができたらなって思ってるんですよ
どんな愛なのかは私の口で説明するべきではないから、内容は避けて私の想いだけを伝える。
意に叶ったかはわからないけれど、伊沢さんはいつも通りの優しい笑顔でこくりこくり頷いていたから、多分良かったんじゃないかしら。
それから二、三言葉を交わして、ちょっぴり揶揄われた。この流れで他にもこの質問をするんだろうなって……そう考えていたときだった。
「それ、僕お借りしてもいいですか」
聞き馴染みのある、落ち着いた声。
まさかあまり関わりのないこの人から言われたとは信じがたくて、周りの皆さんの方が私の返答の先を行った。
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きりは(プロフ) - 雰囲気も、言葉選びも、何もかもが美しくて、一番大好きな夢小説です。更新を辞められたのかもしれませんが、凄く幸せな気持ちにさせて頂いたのでコメントさせていただきます。お身体にはお気をつけて。 (2021年8月15日 15時) (
レス) id: 5e4309df87 (このIDを非表示/違反報告)
Loot(プロフ) - 珈琲丸さん» コメントありがとうございます！そう言って頂けると本当に励みになります。是非またいらしてください！ (2020年12月20日 12時) (レス) id: b999c2c44c (このIDを非表示/違反報告)
珈琲丸 - 文章がとてもきれいで素敵です。ご無理のない範囲で頑張ってください。ありきたりですが応援しています。 (2020年12月19日 20時) (レス) id: 13095fee98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Loot | 作成日時：2020年12月13日 0時
